新年になってから、「出久根達郎『夢は書物にあり』を読んで」を数回書きました。その中で、森鴎外の「(我輩は複数なり。一人は単数なり。我輩といふもの一人なるは驚くべき限なり。此句中なほ誤あれど略す)」という引用文を書きながら、「我輩」は「我輩」なのか、「吾輩」なのかちょっと気になりました。
夕食の時、老妻に、夏目漱石の「わがはいは猫である」の「わがはい」の漢字は「我輩」か「吾輩」かと訊ねてみしました。(先日、「日本人で肺が二個あることを発見たのは誰か」と質問したばかりで、よくも同じ本を何回も使う者だという老妻の感想は後のことです。『わが肺は二個である』)
勿論「吾輩」と「吾」の字で答えてくれたのですが、
辞書で、この「わがはい」の項を立て、漢字は、「吾輩・我輩」とし、用例として、「ーは猫である(夏目漱石)」と書かれては困るよね、というのが私の問題提起でした。
「例えば、『事のしさい』などの『しさい』には、子細、仔細、両用の表記がある。『広辞苑』で、『しさい』を引くと、『子細・仔細』とあり、太平記の『事のーを申し入れんと』その他若干の例が引いてある。このように当該語は『ー』で示すのが通例である。これでは困る。せめて二様以上の表記がある語だけでも当該語をそのまま記してほしいと思うが、そのような配慮はなされない。(高島俊男『工具書のはなし』)
『日本国語大辞典』は基本工具書として、「ー」を使っていません。
『広辞苑』は基本的に「ー」です。
私は、いつも傍に置いて使う辞書の一つの基準として、この「ー」を考えています。