昨日、図書館に行きました。そして、エッセイ他のある棚で手に取った一作品を今日は紹介します。


 椎名誠さんの『あかるい日本』(ベストエッセイ・2009)


 「宇宙飛行士から聞いた話だが、夜間アジアの方向に入り、日本の上あたりにくると、夜なのに日本列島の形がわかるそうだ。

 まわりの国々は夜の闇に沈んでいるのに、日本だけわかるというのは、それだけ日本列島中くまなく電気のあかりが点いているからである。

 街灯や自動販売機は日本中に灯されているし、都市部は夜も眠らない。エネルギー自給率が先進国最下位の日本のこの傲岸不遜ともいうべきピカピカギラギラぶりは、各国からあつまってきた宇宙飛行士のなかではきわめて恥ずかしい風景であるらしい。

 そのほかの国でもたとえばアメリカはシカゴとかニューヨークなど、そこがそれとわかるほど明るく見えるらしいが、それらは「点」としての明るさであり、国全体は黒い闇としてひろがり、それらの大都市だけが文字通り、都市の光が点在するかっこうになっているらしい。

 その国の形がわかるくらい、つまりは国の形のイルミネーションになってしまっている、というのはたしかに「みっともない」だろう。そのほかの地域ではアジアのあたりが広範囲にぼんやり明るく見えるという。

 「それはなんですか」

と聞いたら、「山火事ですね」という答えだった。


 (中略)


 ひるがえって人為的に明るすぎる夜を作っている日本の文化も、精神的には非常に不健全な現象をおこしている可能性がある。

 夜更けになったら危険なので街を歩けない、という状態のほうがむしろ自然なのかもしれない。テレビは深夜は放映をやめていいのかもしれない。二十四時間なんでも売っている便利店「コンビニ」など、本当はなくてもいいのかもしれない。事実これまでわたしたちはかなり長い年月、そういうものがなしでも十分満足して生活してきているのである。

 しいな・まこと(作家)「かまくら春秋」五月号


 もちろん、東日本大震災の前に書かれたものです。節電の「せ」の字も出て来ていないときの文章です。

 それにしても、宇宙飛行士の話は説得力がありました。


 私は新聞に三つの提案をいたしました。「深夜のテレビ・コンビニ・自動販売機の停止」

 賛成、反対いろいろありましたが、こんな立派な主張が、すでに、数年前になされていると知っていたら、あんなつまらない投書なんかしませんでした。いま、恥ずかしくなっています。と同時に、こんな文章を見つけて読むことが出来た喜びをしみじみと味わっています。


(文中太字は私が付したものです)