それまで、まったく意識していませんでした。高校一年の社会科の授業で、『民主主義』という教科書の一節を指名され、読まされました。終わった後、F先生は、「君、もう一度、『さしすせそ』を発音してごらん」と仰いました。


 「さしすせそ」と言ったところ、「結構です」ということで着席しました。それ以後そのことについては何の話もありませんでした。


 授業が終わって、傍らの友人に「おい、わしの『さしすせそ』はおかしいか?」と質問しましたが、「おかしくなんかないよ」というのが友人みんなの答えでした。


 その後忘れていました。仙台の大学で、「東北の訛り」をしばしば経験しました。そして、やっと気がついたのです。かなりはっきりした「さしすしぇそ」、「せ」の発音が、「しぇ」となっていることに。

 

 そこで、その原因である舌の位置を探ると、「せ」の場合、「舌」が上顎部に触れて発音されるのに、「しぇ」の場合、上顎部に触れないで発音されていることに気がつきました。


 それ以後、かなり意識的に、「せ」の発音を、「舌」と上顎部が触れるように発音するようになりました。


 ところが、こんどは「JR」が発音できなくなったのです。なんでもそううまくはいかないものだと痛感した話です。


 「きみー、訛なんかは運動神経の問題だよ」と喝破したS教授のことを思い出しました。なるほど、私は運動神経がないからなと変に自覚しました。


 月曜日朝(金曜日午後も)の、NHKのFMの番組に「気ままにクラシック」という番組があります。その番組中に、クラシックの「イントロ」を出して、曲名を当てる「気まクラDON]という遊びがあります。リスナーがその答えをネットなどで送るのですが、正解をすると、司会の笑福亭笑瓶師匠が「しぇいかい」と大きな声を出します。この「正解」は「せいかい」ではなく、明らかに「しぇいかい」と発音しています。


 「関西のひとですよね、この人は」というのが、東北人である老妻の発言です。「だれか教えてやればいいのに」と私が言うと、「そのままがまたいいのでしょう」と老妻は加えます。東北訛に親しんだものの言葉でしょうか。