「無理題」というのは、正解がないか、正解が二つ以上予想される問題としていました。この早稲田大学国際教養学部の『増鏡』の問題は、間違いなく「無理題」だと思いました。そこで、行動を起こしたわけです。


 八月 十日 当の早稲田大学国際教養学部に、質問状を送りました。
  ① 正解を教えて欲しい
  ② 正解が二つある「無理題」だと思うが、出題者の意見が聞きたい


 九月 三日、 早稲田大学国際教養学部より学部長名(外人名)で返事がありました。
  ① 正解や出題に対する見解は一切公表していない
  ② 指摘の内容について、何らかの措置を取る場合は、当学部ホームページ

   で行う(個人には通知しない)


 九月十九日 当の原文を採ったと思われる講談社学術文庫『増鏡』の全訳注者、井上宗雄氏に出版部を経由して質問状を送りました。(この学術文庫は、学術文庫という名の通り、誠実で、奥付きに質問先が明記されており、質問に誠実に答えてくれることは、すでに(『「無理題」こそ「難題」』74頁)経験済みでしたから、期待をして質問状を送りました。ただ、井上先生がご高齢であられることだけを心配していましたが。(ネットでの知識です

 趣旨は、主語を「人々(おつきの人々)」と考えられないかというものでした。


九月十九日 三問題集(『詳解』・『正解』・『赤本』)の編集部に同趣旨の質問状を送りました。

 これまで、『「無理題」こそ「難題」』では出題原文の誤りなどがないかということのためのみ、複数の問題集を使っていました。ただ、今度の場合、すべて、生徒の答えと異なるため、当の問題集の編著者がどんなことを考えているか知りたくて、初めて質問状を送りました。(『「無理題」こそ「難題」』を書いたときは一切質問していません)


 九月二十七日 講談社学術図書第一出版部(署名あり)より返事がありました。


 「訳注者の井上宗雄先生にお手紙にてお尋ねいたしましたところ、井上先生よりお電話にてお答えをいただきましたのでお伝えいたします。
 先生によれば、「さらにきちんと確認しておきたいが、これはご指摘の通り、主語は 「宮」ではなく、「人々」「おつきの人々」だと思う。ご質問の方によろしくお伝えくだい」とのことでした。(なお、先生は現在ご入院中とのことで、病院からご架電いただきました)
  弊社にても、編集・校閲段階でチェックが漏れていたものと思われ、誠に申し訳ございません。次回増刷時には訂正させていただきます。貴重なご指摘をいたき、重ねて 御礼申し上げます。また、ご返事がおそくなりましたこと、お詫びいたします。」
 
 私は、感動しました。井上先生が、知らぬ顔をなさっても私としてはどうしようもありません。しかも、病床からこんな言葉をいただくなんて。

 併せて、講談社学術図書第一出版部に心から感謝いたした次第です。


 私ごとき、高校の一国語教師が、「無理題」だと主張しても、大学側はまったく問題にしません。ただ、この本にこうある(それも有名出版社の本でないとダメー岩波版と書くと効果がありますが、こちらが書くことは稀で、相手が、朱線などをほどこしてくるのが常)ということを書くと、わずかに反応するのが大学側の通例です。これまでいやになるほどこのことを経験いたしました。だから、私の仕事は、「根拠探しの旅」だと嫌みを言ってきました。


 ここで、出題文の出典であり、しかも、現在もっとも権威のある校注者からこういった言葉をいただいたことの感激は大変なものでした。


九月二十八日 早稲田大学国際教養学部の入試係に、井上先生並びに学術文庫編集部の返事を書いて、あらためて質問状を送りました。


① 「無理題」だと認めて欲しい。


② 採点のやり直しとして、「ア 宮」を正解としているならば、「ウ 人々」も正解とし

 て、両方正解として欲しい。(「無理題」の事後処理としてはこれしかありません)


③ 来年度以後正解を公表するなど、入試の公平さに努力して欲しい


という申し入れをいたしました。