昨日の続きです。


【本文】

 いとうたて心憂のわざや、と思すに、御涙もこぼれぬ。近き手あたり御もてなしのなよびかさなど、まして思ひしづむべうなければ、いといとほしうゆくりなき事とは思ひながら、残りなうなりぬ。身のうさの限りなうもあるかな、と前の世も恨めしう、いふかひなき事を思し続けて、よよと泣き給ふさま、いよいよらうたし。

【私注】 いといとほしうゆくりなき事とは思ひながら、残りなうなりぬ=宮に対しては、まことにお気の毒で、だしぬけの事とは思いながら、ついに契りを結んでしまわれた。(『大系』)


【口訳】

 ほんとうに情けなく、憂鬱なことだ、と思われるにつけ、御涙もこぼれてしまう。中将は、宮の近くで触れる肌さわりや、宮の御ふるまいのなよなよしていることなど、いよいよせつない思いを抑えられるすべもなかったので、(宮に対しては)たいそうお気の毒で、突然のこととは感じながら、思いをとげてしまった。(宮は)わが身のつらさがかぎりないことよ、と前世の宿縁も恨めしく、今さらいっても甲斐のないことを思い続けられて、よよと泣かれる様子はいちだんとかわいらしい。


【検証】 

 もう何もいうことはないでしょう。もっとも大切な場面です。