【本文】(5)

 暁がたになりぬれば、御几帳ひき寄せて、御とのごもりぬるかたはらに、いとなれ顔にそひふす男あり。夢かやと思して御覧じあげたれば、「年月思ひ聞えつるさま、おほけなくあるまじき事と思ひかへさひ、ここら忍ぶるに余りぬる程、ただ少し、かくて胸をだにやすめ侍らんばかり」など、いみじげに聞ゆるは、はやうありつる中将なりけり。


 【口訳】

 暁がたになったので、御几帳を引寄せておやすみになると、その傍らに、たいそう慣れ慣れしいふうに添い寝する男がいる。夢かと思われて顔を上げて御覧になると、「長い年月の間、お慕い申しあげてきましたわが気持、見分不相応なこと、あってはならぬことと思い返し、長らく堪えてきましたが、忍びきれぬ心をほんのすこし、せめてこうして胸の中だけでも休めたいと思うばかりです」など熱意をこめて申しあげるのは、先ほどから宿直していた中将有房であった。


【検証】

 この部分、設問は空欄のみなので、補っておきます。


 どうですか。

 母屋の中の几帳にかこまれてお休みになっていた中務の宮のむすめの、傍らに男が添い寝していたことに気づいた時の驚き。

 先ほどまで会話を交わしていた「中将」と「中務の宮のむすめ」とは考えられないでしょう。

 几帳は部屋の中に部屋をつくるものです。私の勝手な想像ですが、母屋の御几帳のすぐ側には、「さぶらふ人々(女房たち)」が休んでいるのです。

 彼女たちは事情をよく知っていて、あるいは、中将が宮の傍らに添い寝するのを助けているに違いありません。


 昨日の場面にかえります。

 この宮の驚きからして、中将と会話を交わしたのは宮ではあり得ないという主張は文脈的になりたつのではないでしょうか。