倫子女王は、亀山院の出家により、人里離れたところに残された。


【本文2】

 源氏の末の君に、中将ばかりなる人、院に親しく仕うまつりなれて、家もやがてそのわたりにあれば、程近きままに、折々この宮の御宿直など心にかけてつかまつるを、さぶらふ人々もいとありがたくもと思ふ。宮の御方は、この比いみじき御さかりの程にて、まほにうつくしうおはしますを、あたらしう見奉りはやす人のなき事と思ひあへり

【私注】

 源氏の末の君=源氏の末流で、その頃中将であった人。(後に名が明らかにされる、六条有房のこと)

 さぶらふ人々=倫子(宮)に仕える女房たち。

 まほにうつくしうおはしますを=すべてがととのって愛らしくていらっしゃるのを。

 あたらしう=惜しいことに。


【口訳】

 村上源氏の末流で、中将ほどの官にあった人(有房)が、院に親しくお仕え申しあげ慣れて、家もすぐその辺にあるので、距離も近いということで、折々この宮の御宿直など心にかけてお仕えしているのを、宮の御方のおつきの人々もたいへん奇特でありがたいことと思っている。宮の御方はこのころたいそうお盛りの御年配で、ととのって美しくていらっしゃるのを、(おひとりでおられるのには)惜しい御方だともてはやし申しあげる人がいないこと、と侍女たちは思いあっていた。


【検証】 特に問題になるところはありませんが、設問があります。正解を考えてみてください。


【設問】

 傍線部「あたらしう見奉りはやす人のなき事と思ひあへり」とはどういうことか。

ア どんなに着飾っても、それを褒めてくれる法皇はすでに側にいないと、中務の宮の御むすめが落胆している。

イ このやるせない思いをわかってくれる人はいないのだろうかと、中務の宮の御むすめが悲しみに暮れている。

ウ この屋敷を気にかけて尋ねてきてくれる物好きなどいないのだと、中務の宮の御むすめが寂しく思っている。

エ 美しい中務の宮の御むすめが独り身なのを惜しいと思ってくれる人はいないのかと、侍女たちが嘆いている。

オ 中務の宮の御むすめにとって、法皇以上に頼れる人がいるわけはないと、侍女たちが勝手に決めつけている。