『増鏡』の注釈書で手に入るものは、次の四書です。

○ 日本古典全書『増鏡』(1948)ー『全書』と略称

○ 日本古典文学大系『神皇正統記・増鏡』(1965)ー『大系』と略称

○ 鑑賞日本古典文学『大鏡・増鏡』(1976)ー『鑑賞』と略称

○ 講談社学術文庫『増鏡』(1979)ー『学術』と略称


【検証1】

 「とりわきたる御名残もなかるべし」は誰の気持ちかというのが、問題になります。


 『全書』 もとから大したご寵愛もなかったから、上皇が御出家されるといふ場合でも、別に御名残惜しくも存じあげなかったであろう。

 「存じあげる」は謙譲語なので、主語を倫子女王としています。

 『大系』 触れていません。

 『鑑賞』 院は中務宮の御女(倫子)に特に御愛着を感じなかったのであろう。倫子が院にたいして名残惜しさを感じなかったというのではない。

 『学術』 注はないので【口訳】から判断するしかありませんが、「格別御名残惜しいということもないのであろう。」とそっけなく訳しているので、主語を「院」としているのではないかと推測されます。


【私見】 『鑑賞』の説明をとりたいと思います。やはり、倫子が院に対して、名残(心残り)を感じないというのは、この場面から考えて無理があるでしょう。が、ここを出題すれば、やはり無理題になると私は考えます。いかがでしょうか。