私の住んでいるところは、気候温暖、南は海に面し、東と西は山に隔てられた桃源郷でした。ところが、昭和60年代の高度成長の波の中で、海は埋め立てられ、大企業(JFE)が進出、桃源郷は姿を変えました。村の真ん中を大きな道が通りました。それがよかったか悪かったか、わかりません。


 私は、朝、6時30分起床、毎日決まった道を散歩しています。梅が花を少し開いています。ここは無花果(イチジク)の産地ですが、その無花果の木の下に、蕗のとうが頭を出しています。今日も採ってきました。スーパーで買ったものとはまったく異なる香りのすばらしさ。それを肴に日本酒を飲ませてもらいました。

 水仙が30センチ足らずの背丈ながら、可憐な花、真ん中に黄色い花を咲かせています。こっそり、折りとり、一輪差しに差しました。


 昭和50(1975)年、新設の高校に転勤になりました。丘の上のその高校に、最寄りの駅から、毎日同僚のIさんと登って行きました。

 ある日、一緒に歩いていた理科(生物)のIさんが、道ばたの家の石垣に群生している花を指さして、「これが卯の花ですよ。嗅いでごらんなさい。匂わないでしょう。どうして、『卯の花の、匂う垣根に』と歌ったのでしょうかね」と話しかけてきました。

 私は、得意顔をして、「『色はにほへど』というでしょう。『匂う』は『色が美しく輝く』ことで必ずしも『香り』がすることを意味してないのですよ」と答え、「なるほど、そうでしょうね」ということでその日は終わりました。


 ところが、ところが、しばらくして、書店で、平岩弓枝『御宿かわせみ』の単行本を見つけて仰天しました。その題は『卯の花匂う』でした。


 以下明日に続きを書きます。