ネットで、「幾山河」の読みを探しているうちに、面白いものを見つけました。


 ○ 「染まず」の読みについて

   白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ

  牧水のこの歌の「染まず」の読みについては、以前これを「しまず」と読んでいる人が私の身近にもいましたので、牧水夫人の若山喜志子さんに問い合わせてみたことがあります。

 そして、「『染まず』は『そまず』と読みます。故人も『しまず』とは読んでおりませんでした」というご返事を頂戴しました。                         榛原守一

 

 昭和37(1962)年、私は国語教師として、母校に帰りました。そこには私の高校時代の恩師も健在で、しかも優秀な教員が集まっていて、生気ある、知的雰囲気の横溢する職員集団がありました。授業を終わって職員室にかえると、「今日こんなことがあったが、誰かこれの答えを探して」というような話が出、その答えがはっきりするまで、話題になるといった職場でした。


 ある日、O先生から、この「白鳥は…」の歌の「染まず」は「そまず」と読むのか「しまず」と読むのかという問題が提起されました。その場では答えが出ませんでした。

 数日後、若いK君があったあった」といって持ってきたのは、「文学の旅」というシリーズの一冊で、その中に、牧水自筆とある歌碑の写真があり、そこにこの歌が刻まれていたのですが、間違いなく仮名で「そまず」と書いてありました。それで十分ということで、以後みんな「そまず」と読むことになりました。

 その頃国語科では一年の最後に打ち上げの飲み会をしていましたが、その年のもっとも優れた発見などに「奨学金」と称して賞金を出していました。その年、K君がこの「そまず」でそれをもらったことをよく覚えています。


 ネットで「染まず」の読みを見つけて、50年近く前の出来事を思い出しました。その頃の連中で今なお健在なのは3人に過ぎません。しかし、あの頃は面白かったなと教科の雰囲気を懐かしく思った次第です。