いくつかの夜 | 紫の言の葉

紫の言の葉

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いつも
といってもまだ数えるほどの

彼との時間


いつも
彼は嬉しそうに微笑んで

あたしを抱く


余裕なのかな
可愛がられているのかな

楽しんでいるのかな


なんだか、見られている感が
あたしには恥ずかしいのだけれど。



そんな彼が初めて見せた表情(かお)は
少し苦し気だった。



お互いの肌に馴れて
熱に浮かされ波に揺られて

息をのんで声を漏らし
ふと見上げると


彼が溺れていた。



快感の波に拐われ

あたしという海に
彼が溺れていた。


何かに抗うように
何かを逃がさぬように


ひそめた眉根
かたく閉じた瞳

吐息が抉じ開ける唇



初めて見る男の人の顔だった。



~~~ある夜~~~



永く離れていた

唇が

やっとめぐりあい



長く合わされていた

唇が

やっと離れたあと



彼は自分の唇をなめて

舌を鳴らした


まるで

あたしの味を確かめるように



恥ずかしい



声にならずうつむいた






熱いシャワーにほてったまま



彼の腕に包まれる



くちづけは果てしなく



素肌に触れる指はいつも



もどかしい程に優しく滑ってゆく



繊細なところにふるえ



吐息と声と音が漏れる



色っぽいな



彼の言葉に



喘ぎと羞恥が高まる



幾度目かの波にさらわれた



抱き締めあったまま



荒い息を静めたあと



彼をさざ波で揺らす



目を閉じて身を委ねる

彼の顔を見つめた



瞳が合うと

いつものよ うに

嬉しげに微笑む彼




愛しさが込み上げる




瞬くように

果てしないように

感じる間に




切ない時を越え




賢者の時を迎える




そっと寄り添う

あたしの肩を抱いて

頭を預け




暫しの夢うつつに浸る




至福のとき




人肌の癒しを識る




~~~ある夜~~~



広げた両手に抗えない様に


なぞる唇に喘ぐ声が漏れる


鎖骨の僅かなくぼみに感じる


微かな熱が


背筋を這う痺れを誘う


色香を口にされ


羞恥とともに我にかえる


それもひととき



あなたの指が

あなたの瞳が

あなたの唇が

あなたの声が


あなた自身が


どうしようもなく駆り立てる


堪える間もなく甘くなる息


色香よりも彼香


求めるように


掠れた声で名を呼ぶ


腕に抱いた耳元で


囁く気持ち


囁かれる気持ち


一瞬の喜びが


さざ波から


うねりに変わり

高鳴った夜