今回の記事は、もしかすると、近未来で莫大なエネルギーを社会全体に提供しているかもしれない《レーザー核融合発電》についてです。

 

レーザー核融合発電は、前回紹介したトカマク型やヘリカル型核融合発電と違う点がいくつかあります。

違いの一つは、レーザー核融合発電は、チェルノブイリや福島第一原子力発電所で起こったような重大な原発事故を起こす可能性が「原理的にゼロだ」ということです。

トカマク型やヘリカル型も、核融合炉内で起こっている核融合という物理現象そのものが核分裂と違って、人間が強制的に核融合が起こし続けない限り、瞬間的に止まってしまうものなので、その可能性はほぼないのですが、商用炉では常に1億度以上のプラズマを核融合炉に閉じ込めて加熱し続けている以上、その制御システムが人為的ミスや自然災害やテロなどで破壊されたときを想定すると、ある程度の事故リスクは残ります。


しかし、レーザー核融合発電は、そうした事故の起こる可能性が、考え付く限りにおいては、ゼロなのです。

何故そう言えるかというと、その答えはレーザー核融合の仕組みにあります。

下図にあるように、トカマク型やヘリカル型の原子炉では、核融合炉内のドーナツのような空洞の部分(下の画像のピンクの部分)に1億度以上の高密度プラズマを閉じ込めたまま、常に核融合が起こり続けるように加熱し続ける必要があります。
そうしないと、安定した発電が出来ないからです。

 

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しかし、レーザー核融合発電は、違います。

 

レーザーによる核融合は、下の図のように、数ミリ程度の大きさの燃料(重水素と三重水素で作られた球体)に、四方八方から瞬間的にレーザーを照射して、この燃料を圧縮すると同時に(中心部分は10億度近くまで)加熱することによって一瞬で行われるため、原子力発電特有の事故のリスクを「ゼロ」と言い切れるレベルまで小さくできるのです。

 

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なぜ、トカマク型やヘリカル型と同じ量のエネルギーを生み出すレーザー核融合発電の方が、トカマク型やヘリカル型よりも事故リスクが低くなるかというと、トカマク型やヘリカル型が、常に融合炉内に核融合を起こすための高温プラズマを満杯状態で閉じ込めているのに対して(そのため、核分裂を利用した従来の原発と同様に、発電する量は常に一定で、需要に応じて増減させることはできません)レーザー核融合は、たった1ミリ程度の燃料球にレーザーを照射することによってなされるため、一瞬で終わり、その後の核融合炉内には、次の核融合を起こすために用意されているプラズマは存在しないからです。

燃料は、一回の核融合で蒸発してしまうので、そのままにしておくとすぐに温度は下がっていきます。
そのため、商用核融合発電として運転するためには、この核融合を短時間のうちに繰り返さなければならないことになります。

どれくらい短時間でこの核融合を行い続けなければならないかというと、最低でも0.1秒に1回(1秒間に10回)以上です。

つまり、レーザー核融合発電において、核融合炉が核融合炉として機能している時間(言い換えると、核融合炉内に超高温のプラズマが発生している時間)は、どの瞬間をとっても、(ある意味)0.1秒間だということを意味していています。

なので、核融合発電所のシステムがどんな人為的ミス、自然災害、テロなどによって破壊されたとしても、「重大な事故は起こり得ない」ということになるのです。

ちなみに、一回の核融合で放出されるエネルギーは、(理論的には)1グラムの燃料から石油8トン分程度になります。
なので0.1秒ごとに核融合を起こし続けると、1秒間に石油80トン分のネルギーが得られ、1分間で4800トン分のエネルギーが得られ、1時間で約30万トン分のエネルギーが得られることになります。

私たちが今使っているエネルギーは、使用した分だけ減っていくものですが、もし核融合発電が実用化されたならば、エネルギーは使用しても減らず、研究や技術が発展すればするほど増えていくと考えても差し支えないものになるのです。
これが、核融合発電が「夢のエネルギー」と考えられているゆえんです。

 

…と書いて来ると、レーザー核融合発電が夢のように良いことづくめのテクノロジーに思えているかもしれませんが、これにも当然、トカマク型やヘリカル型と比較した場合、大きな欠点となるものがいくつか存在しています。


その欠点の最大のものは、ミリ単位の大きさしか持たない燃料球を、1秒間に10回以上核融合炉内に打ち込み、宙に浮いて動いているその標的に、四方八方からレーザーを一斉に照射して、形が崩れないように均等に圧縮し、10億度近い温度まで加熱することが、異次元に難しいということです。

もう一つの大きな欠点は(これはトカマク型、ヘリカル型、レーザー核融合すべての方式に言えることですが)、核融合炉を実際に作って実験や研究開発をしようとすると、最低でも数千億円から1兆円以上の資金が必要になる、ということです。
つまり、その研究開発を一個人や一企業としてやることは、事実上不可能だということです。

そんな状況の中で、「それは確かに難しいことではあるが、今後の研究や技術開発によって、近い将来達成可能なものである」ということを科学者に確信させ、科学者や企業家によるスタートアップを後押ししたものがあります。

それは、2022年12月13日に、アメリカのエネルギー省が発表した「アメリカのローレンス・バリモア国立研究所のレーザー核融合の実験で、2022年12月5日に世界で初めて《核融合の点火》に成功し、さらに、投入したレーザー光の約1・5倍のエネルギを取り出すことに成功した」という、このニュースです。 

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ちなみにこのレーザ核融合実験は、フットボール場3個分サイズの巨大な192本の高出力レーザ設備を備えた実験施設で行われています。

このニュースは全世界に配信され、大きな反響を呼ぶものともなりましたが、その反面、よくよく内容を知ってみると、「誇大宣伝すぎるほど誇大宣伝なのではないか」という批判を浴びるほど、核融合発電がまだ人類にとって、「夢のままである」と印象づけるものでもありました。

しかし、これによって将来の核融合発電による覇権を視野に入れたスタートアップ企業が多数生まれ、研究開発に資金が投入されるようになったのは事実であり、その点は朗報です。

それによってどのような国や企業が覇権を握るかはわかりませんが、核融合発電がどういう形で実用化されたとしても、それは、その後の人類に、30億年以上にわたって莫大なエネルギーを提供し続けるテクノロジーの礎となるものだからです。

ローレンス・バリモア国立研究所が、2022年12月5日に成し遂げた偉業とは、世界で初めて《核融合の点火》に成功し、投入したレーザー光の約1・5倍のエネルギを取り出すことに成功したことです。
この成功に要した研究開発の道のりは60年です。

しかし、そのニュースに対しては、「誇大宣伝ではないのか」という多くの批判も寄せられました。

以下は、この件ついて報じている、日経クロステック/日経エレクトロニクスの記事の一部のコピペです。

《今回の約1.5倍という数字は、hohlraumに照射するレーザー光のエネルギーが基準。ところが、このレーザー光を発生、増幅するのに必要とした電力量はレーザー光のエネルギーの約150倍となる約300MJ。さらに、その電力を出力するキャパシタ―バンクを充電するのに用いた電力量は約400MJである。これを基準にするとトータルの利得は、1よりはるかに低い0.008(0.8%)でしかない。本来は、トータル利得が1以上にならないと、核融合を利用する意味がないのである。

 ところが、DoEは発表の数日前から「重大発表をする」と盛り上げ、実際に発表した内容も文書ベースではレーザー光基準の「1.5倍」だけを強調するものだった。そのため、米国のメディアの中には、これを「誇大宣伝(hype)」だとして批判する報道も出てきている。》


私がこの発表内容を見て、一番 「これは『誇大宣伝だ』と批判されても仕方ないよね」と感じたのは、この実験で使われたレーザー装置の性能の問題です。

前述しているように、レーザ核融合発電を商用化して社会に電力を供給とするのであれば、核融合炉のレーザー装置は、レーザーを1秒間に10回以上照射し続ける性能と、その頻度の照射を二年以続ける耐久性やシステムの構築が必要なのですが、ローレンス・バリモア国立研究所の実験で使われたレーザー装置は、なんと、8時間に一回しかレーザーを照射できない物だったのです。

なぜ8時間に1回しかレーザーを照射できないかというと、一度レーザーを照射すると装置が超高温になってしまい、その熱を冷却するのに8時間かかってしまうからです。

しかし、これでは話になりません。

しかも、核融合によって得られるエネルギーのトータル利得が1以上にならないと核融合を利用する意味がないのに、実際に得られた0.008(0.8%)を、まるで1.5だったかのように勘違いさせる文脈の中で『画期的な成果を達成した』と発表している以上、「誇大宣伝だ」と批判されても仕方ないような気がしてきます。

しかし、日経クロステック/日経エレクトロニクスも、この記事の後に、《ただ、今回の結果を冷静に、以前の結果、例えば2014年の結果と比較すると、レーザー核融合の実用化がはるかに現実味を帯びてきたのも確かだ。レーザー光ベースの利得、または核融合利得が大幅に向上しただけでなく、レーザー光を発生、増幅させる技術も向上させており、トータルの利得は9年足らずで400~500倍も改善した。トータル利得1の達成まであと100倍超で、手の届かない数字ではなくなってきたといえる。》と続けているように、ローレンス・バリモア国立研究所のこの業績は、批判されるような部分は多々あったとしても、それでも多くの物理学者や科学技術者たちに「核融合発が実現可能なものであることを教えてくれた、画期的なものだった」と評価されているものなのです。

なぜなら、レーザーの性能や耐久性は、今後の研究開発によって、いくらでも改善していけるものだからです。

そして実際に、世界の最先端を行く日本において開発されたレーザーの性能は、それ以降のわずかな期間で、異次元なほど進化しています。

どのくらい進化しているかというと、二年半前は8時間に一回しか照射できなかったレーザーを、1秒間に10回~100回程度連続で照射できるまでに性能を高めているのです。

日本の科学者には、外国のような資金力はついて回りませんが、それを補うことが出来るだけの優れた知恵と、日本人特有の、すべての興味と研究を自分の生きがいや芸術家が自分の作品にそそぐ情熱の対象にしてしまうような、唯一無二の国民性があるからです。

この他にも、この分野で日本が世界のトップを走っているもがあります。
それは、レーザー制御です。

二年半前に行われた、ローレンス・バリモア国立研究所の実験では、レーザーは定点に固定されていた燃料球に照射されています。
しかしこれも、実際に商用化されたときのレーザー核融合発電では使えないやり方です。

なぜなら、実際のレーザー核融合炉では、燃料球は固定されているのではなく、0.1秒から0・01秒間隔で原子炉内に打ち込まれ続けるものだからです。
つまり、レーザー核融合炉内のレーザー装置には、高速で打ち込まれる1ミリ程度の燃料球を感知し、その軌道を計算し、そこに照準を合わせて正確にレーザーを照射できる性能がなければならないのです。

日本においては、この技術もすでに、実用化が視野に入るくらいまでのレベルまで研究開発、実証実験が進んでいます。

ローレンス・バリモア国立研究所の実験で行われた、レーザーによる燃料の圧縮と点火の方法も、日本では、それよりすぐれた方法(中心点火方式に対する高速点火方式)が考案され、実用化に向けた研究開発や実験が進んでいます。

こうしたものの特徴は、その研究開発が巨大な実験施設も、巨額の予算もなくてもできるということであり、それが、レーザー核融合発電の根幹を担うものであるということです。


ちなみに、現在日本の最先端の研究施設で燃料として使われているのは、(画像ではほとんど見えていませんが)下図の親指の前にある1ミリ程度の球体です。

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以下は燃料の拡大画像です。

 

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そして、核融合発電が実用化されるまでのつなぎとして、以下に紹介するような、メルトダウンなどの重大な原発事故を起こす可能性のない、核分裂反応を利用した新たな原子力発電も開発されています。
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動画を再生すれば冒頭で述べられていることですが、この動画は、今から10か月ほど前に中国の清華大学に所属する研究者らが世界に向けて発表した《(中国は)世界で初めて、外部電源が完全に失われた場合でも、冷却システムを使用せずに受動的に冷却するメルトダウンを起こるリスクのない安全な商業用原子力発電所を実証した(もっとわかりやすく言うと『開発に成功した』)》という研究報告を受けて「中国すげー!」「日本完全に負けてるじゃん!」「日本がこの分野で世界のトップを走っているという話は嘘だったのか?」とざわつきまくったネット民に答える形で作られたものです。

先に結論から言うと、この分野でも、日本は中国よりも、ずっと先を行っています。

ただ日本が世界のトップにいることは、先進国の科学者であれば誰でも知っていることなので、日本の研究者はそのことをあえて宣伝していないだけです。

なぜ宣伝しないかというと、セキュリティの甘い家に住んでいる資産家が、資産家だということを世間に宣伝すれば、犯罪者に狙われるリスクが増すだけで何のメリットもないように、優れた科学技術の研究開発で多くの業績を抱えている国の科学者が、それを自分から公にすることで手に入れられるものは、スパイや、工作員や、売国政治家によって盗まれたり脅し取られたりして、どこぞの国のものにされるリスク増えるだけで、何のメリットもないからです。( ^)o(^ )/

ちなみに、日本で開発されている《メルトダウンのリスクのない安全な核分裂反応による新たな原子力発電》は、冷却材に従来の水ではなく、大気中でも燃焼せず、熱をため込む特性である熱容量が大きい”ヘリウムを使い(これは中国のも同じです)、炉心の周りを(不純物を極限まで取り除いた)原子炉級黒鉛”で囲った『高温ガス炉』と呼ばれる原子力発電です。

福島原発事故で炉心溶融(メルトダウン)が起こったのは、すべての電源を失い、冷却水で炉心を冷やすことが出来なくなったことが原因でした。

冷却に水を使っている限り、同様の事故が起こるリスクと、高温高圧の水蒸気が発生して水蒸気爆発や水素爆発を起こすリスクも排除できません。

そこで、水の代わりの冷却材として用いられたのが、水や酸素と反応して爆発を起こす可能性のないヘリウムです。
しかし、水をヘリウムにかえても、その供給路や電源が絶たれる事故やテロが起これば、やはり炉心溶融という大事故につながります。

そのリスクを完全に消し去るものとして新たに用意されたのが、核燃料を原子炉級黒鉛で覆うという構造です。

原子炉級黒鉛は、熱をため込む能力と、熱を放出する能力に優れているため、冷却材の供給が止まって炉心の温度が急上昇しても、一時的にその温度を吸収して外に排出することが出来ます。
つまり、冷却材なしで、炉心を炉心溶融から防ぐことが出来るのです。

この有効性は、2024年3月末に茨城県・大洗のHTTRで行われた実証実験で証明されています。
2024年3月末にJAEAが行った安全性実証実験では、運転中に冷却材循環を強制的に止めても、原子炉出力が自然低下して停止することを世界で初めて確認したと、JAEAが報告しているのです。

前述している、『外部電源が完全に失われた場合でも、冷却システムを使用せずに受動的に冷却するメルトダウンを起こさない安全な商業用原子力発電所を世界で初めて実証した』という中国の発表は、この後なので、当然これを見た人は「中国が日本より優れた、メルトダウンしない安全な原子力発電の開発に成功したのか」と思います。

しかしそうではありません。
では、中国が嘘を言っているかというと、それも違います。

中国の発表は「世界で初めて・・・商業用原子力発電所を実証した」というものなので、「商業用原子力発電所としては、世界初のである」ということになり、その文脈におけるこの発表は正しいのです。

なぜなら、確かに日本にはまだ、このメルトダウンのリスクのない安全な商用原子力発電所は建設されていないからです。(*^▽^*)/~~

でもそれは、日本の科学技術が中国に劣っていることを意味しておらず、単に、新たな原発を建設するための国民の同意を得られないという、まったく別の問題なのです。


ちなみに、中国が発表した原子力発電も日本が開発している「高温ガス炉」と基本的には同じものです。
しかし、”外部電源が完全に失われた場合でも、冷却システムを使用せずに受動的に冷却する安全な原子力発電の実証”という点では世界初でもなく、実証できている安全性も日本の原子炉より劣っています。

中国の原発の安全性実証は、冷却材であるヘリウムの供給は完全に遮断しておこなわれましたが、その一方で、原子炉には制御棒が差し込まれていました。

これに対して、日本の実証実験では、冷却材であるヘリウムの供給を完全に遮断すると同時に、制御棒も抜いた状態で、原子炉の出力が自然に低下し、自然に冷えていくことを実証しているのです。

 

今回の記事は以上です。


 

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 サイラム<(_ _)>