先日、三重県桑名市で「コンドルが日本に残したもの」というシンポジウムが開かれた。日頃、近代化遺産保全のご指導など、何かとお世話になっている行政さんの主催とあり参加した。

 

遺産の保全・保存の基本とは、まずその対象物の「基本的価値性」を確認することに尽きるとのお話。何のことはない、対象物の“自慢”は何かということなのだ。

そんな意味でも、桑名市は明治期に“日本一の山林王”と呼ばれ、不動産売買でも活躍し、東京の渋谷から世田谷まで他人の土地を踏まずに行けたほどの財力を誇った諸戸家の本拠地なのだ。そしてその本家の別邸である和洋折衷建物の現・六華苑の創建110周年の記念シンポなのだ。

 

この建物を設計・施工したのが、明治維新に伴って文明開化の一翼として招聘された建築家で“我が国建築界の父”と呼ばれたジョサイア・コンドル。この当人は、教科書にも載っている「鹿鳴館」や他の多くの文化財級の建築物を世に送り出した、まさに“父”なのだ。諸戸家と建築界の父との合同制作物が、現代に残る「六華苑」というストーリー。

 

口上はほどほどにして、会場となった「くわなメディアラボ」のホールは150人定員にもかかわらず、立ち席?いや追加席を急遽増設するほどに観客であふれかえっていたこと。

 

硬派の企画、またアカデミックな内容にもかかわらず、人口15万人?余りの地方都市(失礼!)にしては、あまりにもの観客の多さに驚かされた。毎年、全国各地のシンポに招かれたり、聴衆として参加する機会も多いのだが、この市民らの反応の敏感さに脱帽。

 

辛口評価すれば、この街にこのような企画が欠乏していたのか、そしてそんな文化的催事に飢える市民がいたのか?

いずれにせよ市民の文化度、そして“わが街の誇り”を再認識する機会でもあったと思う。

 

京都・金沢・奈良・鎌倉・・・・寺社仏閣以外にも多くの文化をはぐくんだ魅力あふれる街が多々存在する。大小の差異があるが、文化度の高さがその街の魅力であることは間違いない。言い換えれば街の底力とは伝統・風習などの地域文化をないがしろにしてはありえないのだ。

 

シビックプライド! いつか必ず六華苑同様に、愛岐トンネル群が地元市民に誇りと実感していただく日を夢見ている。

 

おっと、最後になったが今秋に開催した31回目の特別公開は、おかげさまで9日間開催としては過去最多の33,143人の入場者に来場いただいた。感謝しかない。そして鬼も笑うが、来年秋には累計入場者が40万人を突破することが確実になった。うれしや恐ろしや。