アイドルバラエティというテレビ番組の中でもテレビ東京日曜深夜に放送されている坂道Gの三番組はちょっと異色な番組作り。

アイドルバラエティは十代を中心とした経験の浅いアイドルがトークもロケも食レポも上手に出来ないことを前提として番組が構成されている。

だから基本的に出演メンバーに何らかの試練を与えそれに苦労する姿や嫌がり恥ずかしがる姿を映像に収めそれをネタとしてスタジオトークに持ち込むというリアクション中心の構成になる。

乃木坂工事中の前身番組乃木坂ってどこ?も初期はこのフォーマットに従った番組作りだった。

バラエティ的な対応を学ぶということでMCバナナマンとともに芸人コンビなどをゲストに迎えゲームを題材としたリアクションチェック、という企画が目立った。

シングル発売のたびにヒット祈願という名目で試練が与えられ路上でのティッシュ配りといった定番のロケがありティッシュを受け取ってもらえないと言っては泣く姿を映していた。

乃木坂ってどこ?のMCは番組開始当時(11年)結成18年を経た30代後半という年齢の中堅コンビであったバナナマン。今でいうと三四郎の小宮さんがほぼ当時の設楽さん日村さんと同世代という感じになる。

すでにバラエティ番組の常連であり深夜帯ながら番組MCの経験もありレギュラーのラジオ番組は開始から4年を経ていた。

今から振り返れば中堅から番組MCの常連となるかどうかの勝負時という時代。設楽さんも日村さんも今より痩せておりキャラクター的にも少し尖った印象。当初は手を抜くことは無いけれどアイドルのお守りという役柄をこなしているという印象だった。

それが変わったのはいつ頃だったろう。ヒット祈願でティッシュ配り、滝行、バンジージャンプ、スカイダイビングなどの過酷なロケに挑みスタジオ企画でも生駒さんと「天才」生田絵梨花さん、高山さんや白石さん松村さん若月さんを中心にキャラクターが確立されていった時代のいつか。

メンバーとの間に絆が結ばれていった。

バナナマンはどSキャラの設楽さんに日村さんが振り回されるというネタも多く番組MCとしてはツッコミが設楽さんボケ役が日村さんという役割を分担し「男性」として設楽さんは「有り」だけど日村さんは「無し」というメンバーの評価も番組構成に生かされていた。

ボケ役がメンバーからちょっと軽く扱われるという役割はその後「欅って、書けない?」「ひらがな推し→日向坂で会いましょう」に引き継がれるフォーマットの一部となる。

MCと出演者に絆が築かれることには良し悪しがあるのかもしれないが「乃木どこ」は目に見えてアットホームな雰囲気になり仲の良い担任教師と生徒たちのような関係性はメンバーに対して甘すぎるんじゃないかという視聴者からの(好意的な)ツッコミを呼び込みながらさらに発展していく。

「公式お兄ちゃん」の誕生である。

「乃木どこ」は3年半をもって終了するが「乃木坂工事中」に名前を変え構成を組み立て直しMCもそのまま継続、現在に至る。

 

アイドルバラエティにおいてMCを担当する芸人は自分たちもかつて同じような扱いを受けてきた若手~中堅世代に属する場合が多い。

バナナマンに限らず48G内で似たような経過をたどった「有吉AKB共和国」のMC有吉弘行さんも再ブレイク中に小嶋陽菜さんをパートナーとして番組を始め今や番組MCの常連として多数の冠番組を持つようになった。

共和国の中で有吉さんは当初アイドルを侮るような姿勢の裏返しとしての投げ出した優しさが目立ったが後半では聞き分けの良いお爺さんのような印象になり各メンバーの特色を引き出しこの番組を通じてさらに知名度を上げたメンバーがも多い(指原さんもその一人)。

アイドルバラエティの中で出演メンバーに課せられる「試練」は若手芸人が経験せざるを得ない通過点でもある。熱湯風呂、バンジージャンプ、スカイダイビング、滝行、ゲテモノ料理、催眠術、水中息止対決、ドッキリ企画。その経験を通してメンバーに助言をするような関係に移行していくのかもしれない。

 

アイドルバラエティにおいてMC担当者が出演メンバーとの距離を縮め言わば「情が移る」ようになっていく現象をバナナマンコンプレックスと呼ぶとしてそれが引き継がれたのは坂道の後発グループである欅坂46、日向坂46の深夜番組だ。ただし後発両番組の場合は少し事情が違う。

この一連の長いながい文章はその事情を考える前段なのである。

 

乃木坂工事中も日向坂で会いましょうもMCはコンビ芸人が担当している。

コンビ内でのツッコミ、ボケそれぞれの役割はすでに確立されている。

欅って、書けない?は事情が違ってコンビ芸人のツッコミ役であるハライチ澤部さんとピン芸人の土田晃之さんがMCを担当している。

ハライチがコンビでの起用とならなかったのはすでに澤部さんが一般的なバラエティ番組で単独で活動して評価を受けていたことともう一つ相方の岩井さんが独身で番組開始当初にはまだ20代後半であったことも影響していると思う。

 

「欅って、書けない?」MC担当の一人である土田晃之さんはコンビを解散してからのほうが芸歴の長いピン芸人である。

芸風は1/12深夜放送回で澤部さんと英語講師の外国人が盛り上がって挨拶をした後「苦笑いを浮かべる外国人ってあまり見ないよ」と言ったように、盛り上がるひな壇を尻目に一人冷静な立ち位置にいてチクッと皮肉なツッコミをするというものでありコンビ時代と違ってボケ役というわけでは無い。

言わばMC二人とも(タイプは違えど)ツッコミでありボケ役はいない。

だから澤部さんが進行し、ボケて、メンバーに対してはツッコむという役割を一人で担当し土田さんは番組全体の後見役として後退した位置に立つ。

アイドルの「後見役」という立場ではブレイク直前の指原莉乃さん初の冠番組「さしこのくせに」をはじめ経験は豊富。

アイドルに対しても常に一定の距離を置き冷静で皮肉な見方をするスタイルも確立されたものだ。

 

「けやかけ」のMC土田晃之さんはアメバTVの番組内でアイドルや元アイドルを前にした講師役を担当したことがある。

その中で「アイドルがバラエティに出て活躍したいと言ってもそんなことを言う人が沢山いた中で生き残ったのは井森美幸と島崎和歌子の二人だけ」「マネージャーの中にはおれはずっと見てきたから分かる。爪痕を残さなきゃ駄目だと煽るやつがいるけどバッターボックスに立ったことの無いやつがバッティングについて語ることは出来ないでしょう」などアイドルが陥りやすい勘違いには手厳しい言葉を発していた。

「アイドルに面白さなんてスタッフも求めてない。だから僕たちのような芸人が一緒にキャスティングされる。アイドルは何か聞かれたらちゃんと声を出して普通に答えてくれれば良い。それを面白くするのは僕たちの仕事」とも言っていてそれが「けやかけ」でも実践されている。

土田さんが後輩芸人のギャグを雑に真似たりすることは他番組では無いことなのだ。

 

番組初回放送から見てきて「けやかけ」に関して言うとすればアイドルバラエティとして充分な面白さ(興味深さを含めて)をずっと保っている。腹を抱えて笑うような展開は一般的なバラエティ番組でも滅多に無いことで制作の過程で生まれる奇跡のようなものだ。毎回期待できるものではない。

ただ現在の「けやかけ」から志田愛佳さん今泉佑唯さん米谷奈々未さんが居なくなり結成以来のイジラレ役織田奈那さんが不在なのも確かなことだ。

MCお二人は安心して声をかけたりツッコんだり出来るメンバーの不在に戸惑っている。

菅井さん、土生さんは天然だけれども基本的に真面目な人であり尾関さん上村さんという初期に番組内で注目されたメンバーは前記したメンバーより繊細で傷つきやすい。だからこそグループ内でメンバー間をつなぐHUB役として機能するわけだけれどボケ役を任せるのは厳しいだろう。

真面目で不器用で繊細。

そんなメンバーに対応できるのはやはり土田さん澤部さんだけだと思う。