ボーカルとしてのかしゆかの魅力というのは、説得力です。
声の質、は甘くて切なくて頼りなげで、というイメージなんですが、彼女の「歌」にはマジックリアリズムのような響きが込められています。
たとえば

人間消えたら 地球痛むの?
不安は肥大し タイムリミット OK?

と歌う「シークレットメッセージ」。

街ゆく猫だって空を飛んじゃう街で
キミの存在さえ リアリティがないんだよ

これは「エレクトロ・ワールド」。
これらの歌詞には、遠まわしのメッセージや、メタファーは存在しません。

「?」で閉じられる問い掛けは、答えを求められた者が言葉に詰まってしまうようなイノセントで真っ直ぐな疑問であり、「街ゆく猫」が「空を飛」ぶ時、あなたの目の前では本当に猫が空を飛ぶわけです。
「この街(世界)は、まるで街ゆく猫が、空を飛んじゃうかもしれないくらいリアリティに欠ける街(世界)だよね」というメタファーではなく、客観描写なんです。
だからこそ、「キミの存在」にさえ「リアリティが」感じられない不安や、「街」が滅びゆく恐怖が、リアルに伝わってくるんですね。

Perfumeの三人の歌声を漫画にたとえると、のっちはキャラクター、あ~ちゃんは背景、かしゆかは吹き出しの中の言葉、になるんじゃないかと思います。

のっちがグイグイとストーリーを引っ張り、あ~ちゃんがキャラクターも含めた世界そのものを描き、かしゆかが何を感じ、何が起こっているかを語る。
以前にあるかしゆか中毒患者の方から、かしゆかの歌の魅力は「歌うんじゃなくて、語る」ことにあるんじゃないかと、たしか「なう」の方でコメントをいただいたことがあったんですが、これは卓見ですよね。

かしゆかは、感情を込めて歌うことが苦手、とインタビューで話していたことがあったように、あ~ちゃんやのっちのようにザブンと感情という海の中へ飛び込んで深く深く潜って深海にある真珠を取ってくるようなことは出来ないんじゃないか、と思います。
それは、Perfumeの中では、彼女の役割ではないんです。

彼女は海には飛び込まないかも知れないけど、岸辺に立ち、その海の表面が太陽の光を受けてどのように輝いているか、とか、その海の奥深くにはまだ誰も手にしたことのない真珠があって、どのくらいの大きさでどんな色をして、ということを、その情景の枠の外側にいる鑑賞者に伝えてくれる。真実として。
現実にその世界の中で起こっている出来事として。

かしゆかの声で、「歌」で伝えられる物語を聴いた僕たちは、いつの間にか枠を越え、かしゆかとともに岸辺に立ち、のっちやあ~ちゃんが目をキラキラさせながら海からあがってくるまで時を過ごします。

かしゆかの歌声というのは、フィクションという枠組みを通さなければ知り得ない、感じられないリアリティを語りかけてくれる「VOICE」なのだろうと、僕は思います。
▽・w・▽