PerfumeサウンドがJ-POPの典型から外れていくことは、音楽を中心にしたユニットであるPerfumeそのものにも影響を及ぼします。

インディーズ時代までの、「ションションション」「アキハバラブ」の時期を含めたPerfumeサウンドは、アイドルポップとして従来のJ-POPのエリア内に存在しました。
エリア内とは、評価の座標軸のことです。

例えば、Excelのレーダー図、と言われるグラフを使ってPerfumeの魅力に数値をつけていくとした場合、評価の項目を5つにして、「容姿・歌唱力・ダンス・曲・トーク」としてみます。
容姿・微妙、歌唱力・そこそこ、ダンス・良、曲・そこそこ、トーク・良。
インディーズ時代までのPerfumeは、充分にこのグラフ内で評価できる内容の活動を行っていました。
しかし、メジャーデビューを境として、評価の地軸、みたいものがズレてしまいます。

容姿が微妙なのはまあそれまでどおりとして、歌唱力はエフェクトをかけたことによって測定不能となり、ダンスが風変わりに、曲がかっこ良くなっていくことでアイドルというカテゴリーの枠から踏み出してしまいます。

活動全体も、レコード会社のサジェスチョンによる選択の余地のないイメージと、所属事務所側の「いくらなんでも、この子たちに近未来でクールビューティーはねーだろーよ」という方針のズレが生じてきます。
この方針のズレによって、Perfumeサウンドは「表」と「裏」という二つのベクトルを持つ二重構造になり、プロモーション上の要請を反映した「表」路線の曲と、Perfumeのキャラクター・声質に合わせた「裏」路線の曲が、並行したまま同時進行していくことになります。

例を挙げると、メジャーデビュー後の活動を、「リニア・シティー・エレワー」の三部作として捉えるのが「表」、「w2・シティー・エレワー・PSPS」の四部作として捉えると「裏」となります。

Perfumeのメジャーデビュー曲が、もしインディーズ時代後期に提示されていた「ションションション」の方向へ進んでいたら。

おそらくPerfumeのボーカルパートは、あ~ちゃん・かしゆかのユニゾンを基調として、のっちをアクセントとして挿し込むというスタイルになっていたのではないか、と思います。
しかし、実際にはPerfumeの方向性は分裂を始めしてしまいます。
無機質な近未来的クールビューティーという売り込みイメージと、あまりにも人間臭いメンバーたち。
この二つに分裂したイメージを、破綻させずに保つことは、非常に困難な、実現不可能なことのように思えます。
Perfumeにとって幸運だったのは、この危機に対処するための布石が、すでに5年前、2000年の段階で打たれていたことです。

のっちの存在です。

メジャーデビューの頃、のっちは生来の手足の長さに加えて、思春期を脱しつつある季節の中で身体全体に柔らかみを帯びたスタイルに変貌しつつありました。
顔も、頬のあたりがふっくらとして、えんどう豆から大豆くらいに変わっています。
ショートカットにした髪の毛で、前髪を下ろしておでこを隠すことで縦長の顔の輪郭が全体で丸く感じるようになり、顔の各部分のパーツが前髪から下の部分に収まるようになっています。

大きく、やや離れた両目、丸みを帯びた頬、目鼻立ちが低い位置にある。

すでに気づかれた方もいらっしゃるかもしれません。
これらの要素は、動物学者ローレンツが「ベビーシェマ」と名付けた、動物の赤ちゃんの特徴です。
「ベビーシェマ」にはさらに、「大きな頭」と「丸くてずんぐりした体型」という要素が加わっているのですが、それには当てはまらないかな。

「ベビーシェマ」を見ると、人は「可愛い」と感じるようになっているらしいんですね。
「可愛い」と感じるから守ろうとする、攻撃衝動の対象からズレる、という感じでしょうか。
この反応が、本能として備わった生得的なものであるかどうかには諸説あるらしいのですが、本筋と離れすぎてしまうので割愛して。

メジャーデビュー曲「リニアモーターガール」の衣装は身体のラインがはっきりと出るデザインで、しかもほぼ全身が黒で覆われているため、最上部になる顔が浮かび上がるような衣装となっています。
手足の長い、スラリとした身体の上に「可愛い」顔が乗っているのっちは、リリースイベント(池袋サンシャインシティーの広場)や、ブリングバックミュージックというテレビ番組(ネット放送?)の告知場面で、三人の中央に立つようになります。

「ショートの子可愛い」、という言葉に代表される
ヴィジュアル担当、一見さんいらっしゃい、になっていくわけです。

音楽面でも、「リニア」「シティー」という特異なボーカル編成の曲の後に提供された「エレクトロ・ワールド」が、強く、明確なイメージを持つ歌詞の世界観であったためか、事実上のっちがメインボーカルとして抜擢を受けます。
物言わぬマネージャーとして名を馳せている(…駄目じゃん、それ)もっさんが、珍しく「これ、マチルダさんのっちおいしいんじゃない?」と口にするほど、はっきりとメインの役割を与えられたのっちは、その期待に応えます。

のっちのボーカルの魅力として、リズム感の良さ、歌詞の世界観に対する的確な解釈と描写、ユニゾンでも自然と浮き上がってくるような歌声の強さ、良い意味での子供っぽさ、を挙げることが出来ます。

この当時、中田ヤスタカ作詞による世界観は「キミとボク」という人称に代表されるライトノベル的世界観であり、その世界の住人である強さと脆さを兼ね備えた美少女、というイメージはPerfumeの容姿によって可視化され、Perfumeのボーカルによって声を獲得することになります。

主役となるパーティーの先頭にたつ剣士がのっち、その後につづく魔道士がかしゆか、流浪のお姫様があ~ちゃん、というと分かりやすいでしょうか。
あくまで、イメージとして。

中田ヤスタカ作詞による「四部作」後期の「エレワー」「PSPS」は、レコード会社との契約の更新が考慮されるギリギリの時期に制作、発表された、当時の音楽面における到達点とも言える作品です。

かっこ良くて、切ない。

分裂しかけていた「表」「裏」の路線にバイパスを敷くようなサウンドの完成によって、Perfumeはさらなる未来への扉へ辿り着くことになります。
高校卒業という思春期の本格的な終了、活動方針の再確認の時期、ブレイクへの橋頭堡となる「ファンサーヴィス」の時代へ ▽・w・▽