宝泉寺を左側に見るように右折。
しばらく進むと地図がある。
簡単な道路図、しかし、その中には中野駅に触れた情報がない。
書いてあるのはここでも落合駅まであと~m、ということばかり。
進行方向をまったく逆向きに考えていた僕は、勘違いしたままの方角を目指してさらに先へ進む。
とにかく、まっすぐ進んで左折すれば中野駅側に行くはずだから、と。
失敗の上塗り、7。
でも、これが最後。
左斜めに進む道を歩くと、しばらくして緩やかに右斜め方向へと曲がる。
民家やマンションに挟まれた暗い道は、やがて大きな通りに出て、行き止まりとなる。
通りを隔てた向こう側にはサンクスがある。
サンクスを正面に見て左折すると、また大きな通りに交わり、右折すると道がしばらくまっすぐに続いている。
勘違いしたままの方向感覚からすると左折、でも中野駅というJRの駅が先にあるならその表示がまったく見当たらないことに納得が行かない。
左折する道にはほとんど歩いている人の姿がなく、右折する方向からは人の流れがこちらに向かっている。
人通りの多い方に進めば、また大きな通りに出て何らかの情報、地図とか道路表示があるかもしれない。
わずかな合理性を頼りに右折。
ここで設問。
早稲田通りから左折して道を右折、ほぼ直進してまた右折するとどうなるか。
答えは元の道、早稲田通りに戻る。
サンクスのある場所から右折してしばらく歩き、予想通り大きな通りに出るとまたバス停があった。
これで進路が分かる、と見てみると、先程早稲田通りを逆向きに歩くきっかけとなったバス停から一つ先に進んだだけ。
しかも中野駅から見ると遠ざかっていることになる、と判明。
もう時刻は午前0時35分になっていた。
35分を費やして、僕は正しい方向感覚と進むべき正しい進路を取り戻した。
誰にもぶつけることの出来ない苛立ちと、その場にしゃがみこんでしまいそうな脱力感をなんとか抑え込んで三度右折。
東中野銀座ストリートを抜けた時に見えた無人の交番を過ぎ、名所らしい寺社の続く道をまっすぐに歩く。
バス停の進路図では中野駅までバス停6~7ヶ所分の距離。
射程圏内だ。
次々に現れるバス停を頼りにとにかく歩く。
歩かなければもうどこにも辿り着けないから。
しばらく進むと、通りの左右に飲食店が増えてくる。
ここで、中華料理店脇の道を覗くと細い道ながら飲食店街のようになってずっと伸びている。
今度こそ左折すれば中野駅に行ける(はず)。
その時点で時刻はたしか午前1時近くだったはずなのに、飲食店街にはサラリーマンを中心に人通りも多く、ようやく安心して歩ける心境になる。
歩くうちにネットカフェも見つけ、一応料金を確かめる。
ナイトパックは6時間で1200円、でも次がいきなり10時間で2000円。
その日のことだけを考えたらここで妥協しても良かった。
しかし、吉祥寺のマンボーが10時間1600円程度のナイトカフェを廃止した現状を考えると、今後西東京側を歩く時に定宿となるネットカフェを確保しておきたい。
高円寺駅近くのネットカフェは9時間1500円。
高円寺というのは、下北沢であるとか、三軒茶屋であるとか中野高円寺阿佐ヶ谷荻窪吉祥寺と続くこのあたりを歩く時に、色々と便利なロケーションでもある。
その夜に当てにしていたネットカフェが実際にどんな場所であるのか、を確認しておく必要があったのだ。
これまで僕は、神田に一軒、新宿で一軒、吉祥寺に一軒、正月に見つけた浅草に一軒、とナイトパック10時間で1500円前後の価格のネットカフェを発見してきた。
山手線の西側の基地となるべき吉祥寺マンボーを失って、あらかじめ検索して調べてみると下北沢には長時間のナイトパックを持つネットカフェ自体がなく、三茶、太子堂、中目黒、池尻大橋、代官山あたりではネットカフェが検索で引っかからない。
新宿からだと移動の時間、手間がかかる、電車やバスに乗れば早いとは言っても僕のことだからどうせ歩きたくなる、それならどうせ始めから山手線西側にいた方が楽。
中央線の駅近辺なら飲食店の数量も豊富で有名店も多い。
内部人格同士で協議の結果、当初の計画通り高円寺駅を目指すことに決定。
その飲食店街を抜けると予想通り中野駅前、もう高架になっている、高架を抜ける道を渡り進行方向右側に伸びるやや登り道の線路沿いを進む。
道を登り切ると左側には線路、あとはとにかくこの道を進めばいい。
僕の前、数m先には若い男性が歩いていて、尾行しているような微妙な距離をあけて同じ道を進む。
この兄ちゃん、こんな時間まで何をやってるんだ、という僕のつぶやきにはもちろん、お前こそ、というツッコミが妥当だ。
高円寺駅はもうすぐだ ▽・w・▽