あ~ちゃんが声出しを煽り続けたそのままの勢いで


チョコレイト・ディスコ!


と、曲名を告げる。

おなじみのイントロ、おなじみの振り付け、三人は胸元から少しずつ右手人差し指を高く掲げて天を仰ぎ、回る。


回るんだけど、僕はその時ステージに目を向けていなかった。

観客席を見ていた。


僕はこの最終日、何度も何度も観客席を見た。

見ずにいられない気がした。

10000人を超える観客が、Perfumeのライブに押しかけ、ステージに立つPerfumeを夢中で見つめ、歓声をあげていた。


「チョコ」からライブはいよいよクライマックスへたどり着く。


「セラガ」あたりから急激に上昇し始めた観客席の盛り上がりは、「ジェニー」のコール、続く「声出し」コーナーを経て、頂点に達していた。


舞台演出だって負けていない。


さすがに2ヶ月前のことだから細かくは憶えていないので最近放映されたライブ映像を頼りに再現すると、イントロ開始とともにメインステージ上に設置された大小様々なサイズのミラーボールに照明が当たる。


Perfumeが「ディスコ!」と歌うタイミングに合わせて瞬間的に観客席が明るくなり、飛び跳ねる観客の姿があらわになる。


観客も覚悟ができている。

これからがPerfumeライブの真骨頂だ。

存分に右腕を突き上げている。

飛び跳ねている。


ライブ開始から何度も登場願っている僕のすぐ前の席にいたPerfumeライブ初心者らしいカップルも右腕を振り上げていた。


女の子の方はついに最後まで右拳を握りしめたまま、男の子の方は、何となく周囲に合わせていて、ライブに没入できていないように見える。


僕は、そんな風に周囲を見ながら、「ディスコ」と叫びながら、でも体力を温存していた。


この曲の直後に、あの曲がある。

この曲とあの曲の必殺コンボ。


2007年の7月にPerfumeを知り、9月に初めて彼女たちのCDを手にし、12月31日にPerfumeのライブを知ってしまった「ポリ新参」世代に属する僕にとって、この必殺コンボは常に誇りとともにこの胸の中にある。


古参世代のファンに「水道夏→レシピ」があったように、「コンドラ」のミックスがあったように、僕たち「ポリ新参」には、「チョコ→ポリ」という僕たちの時代の必殺コンボがある。


この必殺コンボは、ブレイク以降、Perfumeの対外的イメージを象徴する楽曲であるとともに、「ライブのPerfume」を証明する最強のセットリストでもある。


「チョコ」が終盤に差し掛かり、三人がセンター通路を小走りに駆け抜けていく。


センターステージにたどり着いて「チョコ」を終え、三人が例のポーズを決める。


僕は身構える。

ありったけの力を込めて、この曲を楽しむために。


いつも思うんだけど、この曲に関してだけは僕の後ろの座席になっちゃった人本当にごめんなさい。

天井に何か引っ掛けたのかと疑われても仕方が無いくらいに僕は高く飛び跳ねるので、さぞかし邪魔に感じることだろうと思う。


でも、どこかおかしくなったのか、というのなら会場全体がそんな感じに見えた。


その日はライブの追加公演の最終日、もはやセットリストは知れ渡っているはずだから、この曲がセットリストのこの位置にあることの意味を誰もが知っていた。


このクライマックスを過ぎれば、Perfumeのライブは終息に向かう。


盛り上がるなら、もう今、この時しか無いのだ、ということを。


アンコール時のMCでかしゆかに、歌っている最中にも関わらず、あまりの観客の盛り上がりに泣いた、と告白させた観客たちがこの「必殺コンボ」に抱く愛情は、僕も含めて、ちょっと異常なのかもしれない ▽・w・▽