のっちのソロトークがあえなく玉砕した後、かしゆかがトークに加わるためにセンターステージに向かう。

横顔だったかしゆかが、のっちとともにまたアリーナE席に背中を見せる位置ま話しながら動く。


かしゆかがこのパートで「ジョジョ」の話をするのが、ツアーでは定番になっていて、この日も語り始める。

この時にかしゆかから見えるように、そしてからんでもらえるように、とジョジョ関連のTシャツを身につけて臨んだファンも多かったようで、いつだったか(15日?)作品に登場する犬のキャラクターTを着たファンがいじられたあげくTシャツをプレゼントする、という一幕もあった。


かしゆかが「ジョジョ」にハマっているのは本格的らしく、その犬Tを見て一目でどんなキャラでどんなシーンが良くて、と熱く語り始めたのには驚いた。

犬Tの裏側には、その犬の「スタンド」が描かれていて、それでまたひとしきり盛り上がった。


もっとも、この時にファンからTシャツを受け取ったことで、あとでスタッフから軽く叱られたらしい。

かしゆかが欲しいと言ったわけじゃなくて、会場内がなんとなくそんな風に盛り上がって、着ていた人もけっこう受け取ってもらえて喜んでいたように見えたので特に問題はなかったように思えたんだけど、まあ、人気小悪魔もいろいろと大変だ。


この日、最終日に話題になったのが、前日29日にもひとしきり盛り上がった「ジョジョ」62巻表紙に描かれた、いわゆる「ジョジョ立ち」のポーズについて。


片足を上げ、膝を身体の内側に向けて折り曲げ、上げた片手には地球が乗せられているそのポーズ。

実物を見ると、舞のひとさしのように、ある動きの一瞬を捉えたような躍動感に溢れる絵になっている。


どんなんだっけ?


と、うながされた30日のかしゆかがそのポーズを真似ると、会場内のあちこちから「シェー」という呟きが起こる。

会場内の雰囲気はなんとなく「半笑い」だ。


実物の絵を見るとそんな風には感じないのに、29日にかしゆかが熱弁を振るえば振るうほど実物を知らない人間からは「それはいわゆるイヤミのシェーのポーズでは?」と、疑われるはめになった。


疑惑に拍車をかけるようにあ~ちゃんが膝を外側に向けて曲げ、足四の字固めみたいなポーズで頭を覆うように片手、もう片方をおなかの辺りで何かを抱えるように構えて「こうだっけ?」と、イヤミざます、となる。


盛り上がる会場、首を振って


違うよ


と、焦り、否定するかしゆか、「ジョジョ」も「イヤミのシェー」もよくわかんないけどとりあえず笑っておけとのっちの笑顔。


疑惑を払拭できないままに終わった29日を振り返るかしゆかに、早くもその話題を仕入れ、或いは29日にも参戦した観客から押し寄せる「シェー」のさざなみ。


シェー、じゃないんだって


さざなみを振り払うように手を振って否定するかしゆかは知らない。

彼女の背後、センター通路中ほどで、あ~ちゃんが「シェー」のポーズを極めていることに。


「シェー」のポーズをするたびに受けるものだから、あ~ちゃんの芸人スウィッチがファンファーレとともにONになったらしい。

次第に驚きのポーズのはずである(シェー!って本来そうなんです)「シェー」に、驚きとは真逆の変顔を加え始めるあ~ちゃん。


明らかにあ~ちゃんの頭の中には「ジョジョ立ち」の「ジョ」の字もない。

ジョルジオ・ジョッバーナ、という名前すらちゃんと発音できない。


受けることに純粋な喜びを感じているだけだ。

そんなあ~ちゃんを見れば観客がうれしくならないはずがない。


「シェー」の声はだんだんと大きく、発生する場所も増えていく。


かしゆかは、Y字型ステージの先端、観客席正面から向かって右側に立っていてその表情は見えない。

もう彼女は、あ~ちゃんの「シェー」100連発に気づいている。

でも、どうも出来ないし、何も言えない。


今のかしゆかがあ~ちゃんにきつい言葉で突っ込みを入れるわけがない。

かしゆかはもう「ドッキドキ」の頃の狂犬じゃない。


観客はそのことに気づかない。

かしゆかが「ジョジョ」のことでからかわれても笑っているのは、あ~ちゃんが絡んでいるからだ、ということに。


あ~ちゃんがようやく満足して「シェー」のポーズを取らなくなった。

それでも観客は「シェー」と声をあげることを止めない。

彼らは、虎の尾を踏んでしまった。


シェーじゃないんだよ、まったく


かしゆかの声のトーンが変わった。


あ、ゆかちゃん怒っちゃった


のっちが敏感に察する。

さすがに、かしゆかから一番痛い目を受けているだけのことはある。

のっちの心のあちらこちらには、狂犬時代に受けた噛み傷がいっぱいだ。


マジ切れというには程遠くても、かしゆかはちょっとオカンムリだ。

それを笑いに紛れさせるのっち、ナイスフォロー。


今から思い返すと、こんな一幕にもPerfume3人の絶妙なトライアングルが描かれているのが分かる。


これもまたライブの楽しみ。


この後、あ~ちゃんの声出し、があり、盛り上がってからの後半戦再開。


ノイジーなイントロが会場に流れる。

照明が落ちて、センターステージに立つ3人の姿がシルエットにかわる。


会場内にいる全員が右手人差し指て天を突き刺す。


ワンルーム・ディスコ ▽・w・▽