のっちは、ソロトーク部分の話しネタをほぼ毎回替えているそうだ。
僕が観た名古屋でも横浜でも二日間ネタは替えてきた。
フリートークは苦手、と思われてきたのっちは、ネタをしこんでおけばなかなかの芸達者で観客を飽きさせることが無い。
いざとなれば噛むし。
横浜二日目ではツアータイトルを
え~直角三角形ツアーも本公演が…
二等辺、という言葉を抜かしてしまい、会場内は「のっけから噛んだ、しかもありえねー噛み方」と、ざわめいた。
観客からのざわめきとツッコミに気づいたのっちは毅然と言い直す。
ちょ、ちょ、ちょっと。
ちょっと静かにしてください(なぜかキレ気味)。
……え~、直角三角形…?
しまった、やってしまった、と唇も噛むのっち。
会場内はやんやの大喝采、スタンディングオベーションだ(嘘、ライブ開始からずっと立ちっぱなし)。
悔しげに唇を噛むのっちは、それでもどこか満足げだ。
違うぞのっち。
本気で噛んだくせに、してやったりみたいな表情は何か違うぞのっち。
スラリとした肢体、Perfumeのメンバーでありながら一人だけ切り取られた次元の中で孤独に踊る「天才」のっちは、同時に、飼い主と公園に遊びに来ていてボールを投げてもらい、大喜びでそれを追いかける途中で鳩か何か小鳥に気づき、驚いて飛び立ったそっちを追いかけ始め、追いつけないとなると悔しげに立ち止まり、そこでようやく、はて?自分はそう言えば何をしとったんだだろうを考え、ハッと気づいて振り向くとそこにはほんのしばらくでも存在を忘れられた飼い主。
しばらく無言で見詰め合って、気まずそうにパタパタと尻尾を振って、結局ボールは投げられたままどこかに転がっていてもう場所も分からなくなってしまう、毛並みも血統も良いけど頭の悪い気性の穏やかな中型犬、それがのっち。
そんな(だからどんなだよ)のっちは、Perfumeの中で時折騎士のように他のメンバーの危難を救う。
あ~ちゃんはのっちのことを聞かれると必ず
ステージで自分がいっぱいいっぱいになっちゃって、何も言えなくなったりする時にバーッと来て救ってくれるのがのっち
という意味の言葉を繰り返す。
今回のツアーでも横浜二日目、最初のソロトークの際、話すネタをど忘れしてしまったかしゆか嬢を見るや、水分補給のドリンクを飲む時間を取っていたのっちが
どうしたん?
と、うまいタイミングでトークに入ってきて自然と話をつなげて、そのまま二人トーク。
のっちは、たぶん非日常世界用の生き物なんだ、と思う。
レコーディングとかレッスンとかステージやカメラ前に立った時、それは目覚める。
いや、目覚めてきた。
かつてのっちの中には、熱く、時に熱すぎるくらいにステージ上から観客を煽る、荒ぶる14歳のちおと、パフォーマンスに集中して覚醒した時に現れる天才少女あやのちゃん、二つのステージ用、非常用人格があった。
今回のツアーでは、少なくとも僕が観た中では、どちらも現れていない。
のっちはのっちのままだ。
ずーっと21歳の等身大ののっちのまま、なんだかんだで観客席をトークで盛り上げ、「Kiss and Music」のダンスではMIKIKOさんが振り付けの中で刻んだ細かいリズムを完璧に捉えてみせた。
のっちにとってはすでにステージに立つことが日常になったのだろう、と思う。
緊急避難のようなタイミングで現れてきた内なるのっちの役割は、のっちの、大本彩乃さんの成長とともに終わった。
僕がステージに観たのは、恵まれた才能や恵まれた役どころを当然のものとして受け入れ、堂々としたパフォーマンスを披露しつつ、トーク部分では成長を感じさせながらも、きちんと残念でもある21歳、表も裏も無い「いつでも、どこでも」のっちだった。
Perfumeの女神 西脇綾香さんがPerfumeに対して貢献した最大の役割は三つ。
かしゆかとPerfumeを創ったこと
あ~ちゃんであること
そして、
彩乃ちゃんをスカウトしたこと
だ。
Perfumeには最強の盾と矛があり、その「矛盾」を包み込む大きな大きな使い手がいる。
最高のバランスとアンバランス。
無敵だ、ムテキングだ ▽・w・▽