僕は今回の「歴史と変遷」の中で、繰り返し、中田さんがある曲の中でボーカルの軸に誰を据えるか、というのは音楽的な解釈が中田さんの意図と合致するかどうかによるのではないか、という意味のことを書いてきました。
様々なインタビューなどを読む限り、「テクノ歌謡を歌うアイドル」という営業政策上の括り、縛りのきつかっただろう全国インディーズ期をのぞいて、ある曲の中で誰の歌を軸に据えるか、という選択は中田さんがレコーディングをする時点での判断なのであろう、と推測されるからです。
たとえば「エレクトロ・ワールドはロックサウンドの要素が強いかっこいい曲だから、ボーイッシュなのっちメインで行こう」とか、「『Perfume』はアイドルっぽさ全開の曲だから声の可愛らしいかしゆかメインにしよう」とか、中脇さんに代表されるヤマハ制作工房からの指示があってのボーカル採用、というわけではないのだろう、と。
3人がそれぞれ1曲を通して歌い、その時点では誰のボーカルがどの部分に使われるか、は分からない、ということですから、Perfumeサウンド制作の場合、曲作りの早い段階に歌入れを行う、という中田さんの前には常に異なる解釈によって歌われた三つのボーカル素材が存在してきたことになります。
楽曲の説明を一切しない、という中田さんの発言を言葉どおりに受け取り、歌う前に言葉の発音を統一する程度の話し合いしか行わない、というあ~ちゃんの言葉の通りに歌録りが行われているとするならば。
これも以前に書いたとおり、Perfumeサウンド初期の頃、中田さんの作曲スタイルというのは基本的にはボーカルを一人と想定してのものだったはずです。
だから3人の歌い手がいるユニットに提供する曲でも、基本的には一人のボーカルで足りてしまうものが多かった。
Perfumeサウンドの初期、非常にオーソドックスなボーカルパートの割り振りが行われていたのは、まだ中田さんの中に3人の歌い手用の対策マニュアルが出来ていなかった、という面が大きかったのではないか、と考えることが出来そうです。
僕が「ドーナッツ」パターンとして分類している、3人それぞれのソロパートを順番に配置し、サビはユニゾン、という割り振りは、中田さんオリジナルではもちろんなく、パッパラー河合さんやももいはるこさんから提供された作品の中でも見られる「ユニット用のボーカル配置」の基本的なフォーマットです。
まだ若い中田さんは、その基本的なフォーマットに従うしかなかったのではないか、と思われます。
もし、その頃から現在のような中田さんオリジナルのボーカルの割り振りを行ったとしても、アミューズに提示された段階で採用はされなかったかもしれませんし。
中田さんだって始めから「神」だったわけではなく、地道な努力で実績を挙げ「神への長い道」を歩んできたのだろう、と思います。
中田さんの成長振りというのは、実は本隊capsuleのサウンドよりも、Perfumeサウンドの中に顕著に現れている、とも思うのですが、こういうことばかり言っていると中田さん自身のファンに怒られそうですな、ごほ。
で、え~と、そうだ、中田さんの前には常に三つのボーカル素材がある、という話でしたね。
このボーカル素材というのは、曲を渡されたPerfumeの3人それぞれが個人的に感じた、或いは読み取った解釈によって歌われているものです。
もちろん中田さんによる歌い方の指示によって、矯正はほどこされています。
これを、中田さんは一曲の中で切り貼りしてサウンドを構築していくわけなのですが、ボーカリストの歌い方によって演奏部分を作り上げていく、とは言っても中田さん自身の意図、方向性というものはあるのだろう、と考える方が妥当ではないか、と思われます。
その意図、方向性からずれたもの、歌い手の歌い方や「音」としての声、がそれらと合致しない場合は切り落とされていくのだろう、と。
中田さんの意図と合致したもの、そして、中田さんが意図しなかった、中田さん自身がインスパイアされるような解釈で歌われたものが採用されるのだろう、と思います。
僕は、中田さんの意図と合致した歌い方をするのがのっちであり、中田さん自身が影響を受ける独特な解釈で歌うことがあるのがかしゆかなのだろう、と思っています。
あ~ちゃんが、歌唱力の確かさに反して、つい最近までソロパートで重要な部分をまかされることが比較的少なかったのは、やはり歌い方、解釈が中田さんの意図するものとはちょっとだけ違ったものになってしまっていたからではないか、という気がします。
前回ではあ~ちゃんの発声法、いわゆるディーバ歌唱法にその原因があるのではないか、という仮説を立てて考えてみましたが、もう一つ、歌い方そのものについても考えてみると。
あ~ちゃんの歌には独特の「節回し」があります。
あ~ちゃん自身は「歌いまわし」という言葉を使っていますが、この独特の歌い方は「アイドルこぶし」と言われる歌い方なのではないか、と思います。
「アイドルこぶし」ってなんだ、という方も多いでしょう。
実は僕も今までにこの言葉を聴いたのは一度しかありません。
この言葉を使ったのは、元アイドル歌手にしてロックバンド「リンドバーグ」のボーカル、渡瀬マキさんです ▽・w・▽