シングル「love the world」が発売されたのが約一年ほど前。


現在までの人生において、もっとも濃密な時間を過ごしているだろうPerfumeは、ほんの一年ほどの間に様々な意味で驚くべき成長を遂げていて、それがほぼそのままサウンドに現れているように思う。


アルバム「⊿」に収録されている既発シングル曲とアルバムオリジナルの新曲の間には、明らかなイメージ、雰囲気のズレがあり、発売前のレビューにいくつか書かれていたような「シングル曲をうまくアルバムの雰囲気にはめ込んだ」という感想については自分なりに検証してみないと安易に同意できない気がする。


浮遊感とリアル。


この二つの傾向の違い、というのは分かりやすくボーカルパートの雰囲気に現れていて、たとえば「ラブワー」「DF」「ワンルーム」というシングルのリード曲は、いずれも歌い出しのソロパート、及び歌いだしユニゾンパート後のソロパートがのっちから、になっているのに対し、アルバムオリジナルの各曲では、その役割を担うのが、ほぼかしゆかとあ~ちゃんとなっている。


活動期間の長いパフュームには多くの楽曲があり、全体における大雑把な区分け程度に考えれば、楽曲の歌い出しソロパート、及び歌い出しユニゾンパート後のソロパートを担当するメンバーが、そのままその曲の重要な役割やユニゾンパートの軸、を担当することが多い。


メジャーデビュー後、特に「エレワー」発表後に三人いるメンバーの中で、その中心的な役割を振り分けられる機会がもっとも多かったのがのっちであり、シングルのcw曲やアルバム「GAME」収録のオリジナル曲などではあ~ちゃん、かしゆかがメインボーカルと言っていい役割を振り分けられることがあっても、ブレイク後でさえ、シングルのリード曲では「ポリ」のあ~ちゃん、「BcL」のかしゆかをのぞいて3曲連続して歌い出しソロパートをのっちが担当している。


のっちが歌詞世界の情景を叙述し、あ~ちゃんかしゆかによって情景が華やかに彩られる。


特に2008年7月から始まった同世代の日常三部作、を歌うのっち+あ~ちゃんかしゆかチームのボーカルは、ほどよくリアルでほどよく甘く、そしてほどよく重い。


それら既発シングルのリード曲にくらべて、かしゆか×あ~ちゃんを軸とするアルバムオリジナル曲には全体のイメージとして浮遊感を感じるものが多い。

また「NF」「IslU(または未練)」のように、螺旋を描くように上昇して再び現れた「甘く切ないPerfume」では、「SEVENTH」「BcL」「シクシク」と同じように、のっちよりもかしゆか×あ~ちゃんによるボーカルチームが楽曲のイメージを決定付けていて、そこには「⊿」に収められた既発シングル曲の持つ「重さ」は無い。


初夏の季節に発売されるアルバムに相応しく、ポップで「エアリー」だ。


中田ヤスタカは、一見不統一にも思えるこれら二つの傾向から感じる違和感を「Take off」の後、「ラブワー」「DF」「edge」と旧作を並べた後にポンと「NIGHT FLIGHT」を放り込んでリセットし、さらに「Kiss and Music」でシフトチェンジ、「Zero Gravity(または無重力)」からスロットルを全開にして聴く者を浮遊感の中に漂わせる。


親切にも日常三部作の中では甘い部類に入る「ワンルーム」でソフトランディングさせ、「願い」によって日常世界へ復帰させるアフターケアーまで見せて。


似通っているように見えて実は分子構造の違うPerfumeのメンバー3人の歌声を、自在に組み合わせ、分解し、溶け合わせる手腕とセンスは、このアルバムによってさらに際立っているように感じる。


検証終わり、やっぱり中田氏、「うまくはめ込んだ」みたいだ。

Perfumeにはもう、どんな歌だって歌える。


作詞作曲を手がけるプロデューサーから、かつてこれほどまでに愛されたボーカルユニットを、僕は知らない ▽・w・▽