基本的に、ポップソングの歌詞、というのは一人称一視点による独白(モノローグ)です。


僕、なりあたしなり俺なり私なり、人称の呼び方みたいなものは様々でも、誰かに向けて(その誰かが自分の場合もある)の一人語りになっていて、時々男女による掛け合いのようなスタイルがあるにせよ、一人称一視点から見た世界の様子が、歌詞の世界観そのものになる場合がほとんどです。


ですから、そのモノローグが語られる声、というのも基本的には一人、一つの声であることが望ましいのではないか、と思います。


ここで、一般論からいきなりPerfumeへ話をこじつけますが、中田ヤスタカさんの作品世界も、基本的には、一人の歌い手、一つの声を想定して作られていることが多いのではないか、と思われます。


前回の最後のほうで中田さんが楽曲提供するアーティストで複数のボーカルが存在するのはPerfumeだけ、と書いて、さっそく勘違いであることをコメントによって指摘していただいたので(ゆうさん、サンキューです)、まあ複数のボーカルが存在するユニットへの曲提供は中田さんにとって例外的な事例である、くらいに考えていただいて。


中田さんがPerfumeのサウンドプロデュースを依頼されたのが2003年。


それ以前のcapsule以外での活動というと、Sync↔Sync(木の子さんとのユニット)とあとひとつ「天然少女EX」というアルバムの中の2曲ほどを編曲した、ということくらい。

いずれも1999年以前における活動だったようです。


その後、2001年にcapsuleがデビュー、2002年には映画「うつつ」の音楽を担当、2003年にはコナミのゲームのサントラ盤に1曲提供していて、そのボーカル担当がこしじまさんと「わんた」さん。

まだ活動の幅が限られていた時代に、サウンドプロデュースを任されたのが、テクノ歌謡を歌うことが決まっていたアイドルユニット「Perfume」だったわけです。


ゲームのサントラ盤とどちらが早かったのかは分かりませんが、いずれにせよ、中田さんにとってはほとんど初めて、と言っていい3人のボーカルの存在に戸惑うこともあったんじゃないかな、と思います。


Perfumeが、メインボーカル+コーラス、ハーモニーというスタイルのユニットであったなら、まだその戸惑いも少なかったかもしれませんが、おそらく、アミューズおよびヤマハによる合議の末に


楽曲は80年代を思わせるような「テクノっぽい」ものであること


しかもアイドルソングであること


アイドルユニットなので、センターといってもいい活動の中心的な役割を担う存在のメンバーがいること


ただし、そのメンバーの歌唱力には不安があるので、その子だけをメインボーカルに据えた曲にはしないこと


したがって、3人のメンバーそれぞれに見せ場、みたいなものを持たせるような歌唱パートの振り分けをすること


というような、発注における細かい指定があったんじゃないのかな、と思います。


木の子さんの歌詞、もやはり一人称一視点、本来一人の、一つの声が歌詞の世界を歌うのに適したものだったことを考えると、歌唱パートの振り分け、という課題はかなり難題だったのではないか、と考えてもいいように思います。


一人用の曲を、3人に振り分ける。

しかも、Perfumeは未完成ながらダンス&ボーカルユニットではあったものの、コーラスグループではありませんでした。


声の相性によって選ばれた3人、というわけでもなかったわけです。


あ~ちゃんを中心にして、あ~ちゃんとかしゆか、あ~ちゃんとのっち、の声には親和性みたいなものが感じられるのですが、かしゆかとのっち、の声ははっきりと違います。


3人の声を使い分けるなら、一人一人のソロパート+ユニゾン、という選択肢しかなかったんじゃないのかな、という気がします。


ユニゾン部分ではメロディにハーモニーが重ねられたりしますが、これもプラグインによる機能を使用しているだけ。


広島時代のあ~ちゃんメロディ、のっちハーモニーというスタイルを知る者にとってはもったいないことを、という感想に尽きますね。


中田さんによる歌唱指導、「冷たく」「そっけなく」そして感情を込めすぎないように、という方針と椅子に座らせた上でのボーカル収録には、もしかしたら3人の声の個性を平らにならして、一つにまとめあげる、という目的もあったのかもしれません。


3人に合わせるのではなくて、自分のスタイル、一人のボーカル仕様というスタイルに3人の声を近づけようとした、全国インディーズ期という試行錯誤を重ねた結果としての中田さんの結論、方向性が、「リニアモーターガール」から始まる三部作のボーカル処理における強力なエフェクトだったのではなかったか、というのが今回の仮説です。


もともと一つの声、とするために強力なエフェクトをかけたボーカル処理なら、3人によるステージでの生歌披露をはじめから考慮しないことの方が自然です。


中田さんにこの思い切ったボーカル処理を可能にさせたのは、一つにはメジャーデビューを引き受けてくれたTJCの存在がアミューズの発言権を弱め、さらに恩人篠木さんが「近未来」「アキバ」をPerfumeを理解するためのキーワードとして誤解してしまった結果、ではなかったかとも思うのですが、さて、実際はどうだったのか、はなんとも分かりません。


QuickJapan77号におけるアルバムGAME発売直前のインタビューで、中田さんの


ボーカルが3人いる理由を、曲を作りながら考えることが増えた


という発言を読んだ時に、思わず


「今!?今さら!?あんたプロデュース何年目の発言だよそれ」


と、突っ込んでしまった思い出が、僕に今回の記事を書かせています。


とにかく、中田さんが選択した強力なエフェクトをかけたボーカル処理を含んだ楽曲スタイルはその後、Perfumeのライブスタイルを決定付けるMIKIKOさんの振り付けや関さんによるアートディレクションに深甚な影響を及ぼしていくようになります。


そして、このメジャーデビュー前後の時期から、メンバーの中で一際その存在感を増し、華やかな成長を見せていくのが。


悪ガキの悪戯で眉毛を書かれた耳の長い中型犬、ことのっちです。


次回では、「リップシンクの天才ってどういうこと?」というみなさんのはてなマーク?にお答えしてみたい、と思う次第であります…… ▽・w・▽