2006年1月11日


コンピューターシティ


発売。


この曲のPV製作スタッフは、ディレクターが関和亮(そうだ、このお名前セキカズアキと読みます)さん、フォトグラファー ヤベヒロユキさん、というおなじみのコンビ、CG製作などのクレジットは無く、スタイリストが内沢研さん、QJ75号であ~ちゃんと対談した方ですね、それからヘア&メイク担当オオスガマサコ(大須賀昌子)さん。


このスタッフの名前、良く覚えておいてください。


チームPerfumeヴィジュアルスタッフは、研さん、大須賀さんの加入をもって、ほぼメンバーがコンプリート。


ヘア&メイクスタッフの高橋カオリさんが大須賀さんと入れ替わったりしつつ(後にもう一人加入)、DVD製作はほぼこのメンバーで行われることになります。


高橋カオリさんは、「リニア」「ポリ(DVDのみ、ジャケ写は別の方)」で「残念かしゆか」をクリエイトしてしまう、という恐るべきキャリアの持ち主なので要チェック。

高橋さんの名誉のために言っておくと、「エレワー」ではちゃんとかしゆかを可愛くしてくれていますし、この方は基本的にあ~ちゃん、のっちのような目鼻立ちのくっきりした人が得意のようです。


さて、「シティ」のPV、まず衣装の雰囲気が前回とはまったく変わっています。


「リニア」が黒ずくめだったのにくらべ、こちらは白。

何より重要なのが、この時から3人おそろいの衣装が無くなる、ということです。


前回書いたように、この頃から3人の体型は個性がはっきりと分かれてきます。

この頃から、というか、まあ元々随分違ったわけなんですが、アイドルグループということで、同じイデザインの色違いの衣装ばかりだったわけです。


それを内沢さんは、市販のものから探し出してきた衣装を、自分でアレンジして3人の個性に合わせる、というテクニックを駆使して印象を変えています。

3人の希望だった「白」という色で統一までして。


「あれはラフォーレとかに行ったら普通に売ってる服なんですよ」


PVの中でかしゆかが前ボタンを全部止めているから違って見えますが、ジャケットはほぼそのまま同じ物、スカートだけ長さを調節して巻いたりしてヒダを加えて若干切ったりしているかもしれません、でも多分同じデザイン。


ジャケットの左襟近くにあ~ちゃんが星一つ、かしゆか十字架、のっち星三つのアクセサリー。

かしゆかだけ右襟に星二つ。


ブーツはそのままのように見えますね。


QJ75号に掲載されたプロフィールを引用すると内沢研さんは、BONNIE PINKさん、吉井和哉さんなどのアーティストのスタイリングのほか、広告、雑誌のデザインなんかも手がけているそうです。


三人からの信頼も厚く、あ~ちゃん曰く


自分たちのイメージを言うと、研さんはそれよりかっこよくしてくれる。


だって事前のフィッティングもなしに撮影を始めるってふつうじゃありえないですよ!


チームPerfumeにまた一人天才が加わったわけです。



「シティ」のPVは、黒を背景に白い衣装を身につけた3人がリップシンクをしながら歌い踊る場面、3人の表情のアップとイメージショットを組み合わせた構成になっています。


このPVでは、前回の穴埋めをするようにかしゆかが可愛らしく撮れていますね。

あ~ちゃんも凛々しいキリッとした表情が魅力的なんですが、のっちだけ眉毛の描き方のせいなのかな、田舎の小学生みたいに見える時があります(おら、ぱふゅーむだど、と言い出すんじゃないかとハラハラ)。


髪の毛に青(これもやっぱり紫にごく近い色)のメッシュ、ジャケットの裏地がパープル、タイツの色がブルーグレイ、とこのPVの中でも「青」が、効果的、暗示的に使われていて、白と黒の世界にアクセントを加えています。



この曲から中田さんが作詞も手がけることによって、Perfumeの歌詞世界から思春期のリアルな苦さが消え、楽曲、映像、ダンスを合わせた印象は、よりポップに、よりキュートに、より甘くなったように感じます。


ただ、中田ヤスタカという才能は、作詞家となった時でさえ、一筋縄ではいかない奥の深さを見せます。

ポップソングの歌詞、というのは誰の作品にせよ、「基本的」にはモノローグ、独白、独り言、心のつぶやき、誰かへの語りかけ、です。

誰かとの会話、対話ではなく、そこが小説の文章と大きく違うところです。


しかし、たとえばラブソングなどの場合、誰かが誰か、その相手がまるで目の前にいるかのように感じる時もあれば、その場、その時間にはいない誰かへの呼びかけになっている時もあるにせよ、言葉を贈る対象が、確かに存在しています。


それがこの「シティ」では、「ボク」「キミ」という言葉が使われ、「愛してる」という感情まで吐露されますが、その言葉を告げる相手の実在にアリバイがありません。


それどころか、「愛してる」と告げる誰かの存在までが不確かです。


この誰か、が


完璧な計算で作られたこの街


の住人ならば。


この誰かも、「愛してる」と告げた相手も、プログラムにしか過ぎないからです。


ひとつだけ 嘘じゃない 愛してる


という言葉、感情さえプログラムの一部に過ぎない。


もちろん、


ボクがキミの言葉で 悩むはずがない


という言葉も。


コンピューターシティの中で起こりうるあらゆる可能性は、0と1の羅列、ONとOFFの無限の組み合わせによって計算されたプログラムです。

少なくとも歌詞の通りに世界を見れば。


AIに恋した誰かと、存在するはずの無い恋愛感情に戸惑うAIとの甘く切ない恋物語、古典的なSFのテクストのように見える「シティ」の歌詞世界は、ヴァーチャルな世界の不確かな実在、というテーマを持つ、割とコンテンポラリーなSFとしても成立しています。


近未来テクノポップ、という売り文句は伊達じゃない、作詞家中田ヤスタカ、もなかなかに油断の出来ない才能です▽・w・▽