毎日仕事が終わるのが、夜の10時を少し過ぎたくらい。

三月、四月は、ほぼ週末になるたびに大きな宴会が入ったりしたものだが、五月、そして今月に入ると、宴会の何も入らない週もある。

となると、仕事の中心はホテルに宿泊するお客さんの夕食メニューを出す作業。

あらかじめセッティングしたテーブルにお客さんを案内し、夕食メニューの内容を説明して、肉か魚、どちらかメインの料理を選んでいただいて、ドリンクなどのオーダーを受け、厨房に通す。

ドリンクを出し終わったあたりで、厨房からスープが出るのでまずそれを運ぶ。

そして、メイン料理を運びつつスープカップを下げ、ドリンクを飲み終わっているお客さんには追加のオーダーがないか声をかけてみる。

メイン料理を食べ終わったお客さんに食後のコーヒーかシャーベットをお持ちして夕食メニューは終了。

お客さんが来店する時間が重ならなければ、スムーズに仕事も進むし、たとえ一時に多くのお客さんが来店したとしても、さほど慌てる必要はない。

テーブル数は全部で11卓ほど。

しかもそのうち1番、2番卓はレストランの奥、厨房のすぐ近くにあるので、まず使うことがない。

事実上の満席は9卓分ほどで、入れ替わりでお客さんが入ってもディナータイムの来客数は忙しくなったとしても10~15組、20名を越すくらい。

レストランのウェイターなら、通常4~5卓分くらいは一人で受け持つ守備範囲になる。

おれとN沢さん二人で何とかやっていけるシステムにはなっている。

時折予約もなく、フルコースを食べに来たりするお客さんがいて、何しろ宿泊客用夕食メニューの四倍近い客単価になるので、もちろんお受けしてオーダーを通すんだけど、シェフはメイン料理の魚を切り分け、肉の余分な脂を除く作業から仕込まなければならないので、予約してくれよな~、と軽くぼやいたりする。

さて、そんなこんなで仕事が終わり、帰りになると、最近はほぼ歩いて家まで帰るようにしている。

無駄に歩くようになって妙に体力がついてしまい、気持ち的にある程度の距離を歩かないとスッキリとしないようになってきてしまった。

家まで歩くといっても、普段はN沢さんの車に便乗させてもらっているくらいだから結構な距離がある。

最短コースを通っても1時間とう~ん、2、30分はかかるかも。

その時にはもちろんi-Podで好きな音楽を聴きながら歩く。

最近のお気に入りは桑田圭祐の『明日晴れるかな』やRADWIMPS。
恥ずかしながらどちらも長澤まさみちゃんがらみの選曲だ。
どんだけ。

毎日コースを変えて、なるべく通ったことの無い道を探しつつ歩くので、割と軽く2時間以上歩くことになったりする。

もちろん一日ランチタイムからディナータイムまでの通しの勤務の時にはしないんだけど、平日の暇な日にはディナータイムからの出勤になるので、その前の日の夜なんかには歩く確率も大きくなる。

今時分の季節だと、まだ夜の空気は冷たくて歩くのには最適。

もうしばらくして暑くなってくると歩くのもしんどいようになってしまうだろう。

まあ、もちろんひまだから、というだけではなく、仕事中に埃がつもるように心の中にたまったストレスを解消する、という側面が大きい。

真夜中に住宅地を歩いたりもするわけだから、明らかに不審人物丸出しで、妙に姿勢良く、かなりのスピードで移動している姿は、そのうちに都市伝説の一部にでもなるんじゃないか、とさえ思う。

今に巡回中の警察官から職質をうけるんじゃないか、となかば期待半分で待ちわびていて、実際何度もパトカーとすれ違ったりしてるんだけど、まるで相手にしてもらえない。

大抵は手にコンビニで買った何がしかの食品の袋を提げていて、しかも明らかにどこか目的地に向かって歩いているように見えるはずの決然とした態度から、きっとこの近く、さほど離れていない場所に住む近所の住民、と判断されてしまうのではないか、と思う。

実は結構住宅街に入り込んで道に迷いそうになり、ウロウロとしてたりするんだけど、そんな時に限って目撃者もいなかったりするんだ、これが。

家に帰ってくるともう日付が変わっていることもしばしば。

それでもさほど疲れたとは感じなくなっている昨今だ。

歩いたからといって何かいいことがあるわけでもなんでもないんだけど、ランナーズハイ、といったか、それと近い状態になるのかもしれない、時々このままもっともっとどこまでも歩いてみたい、と思ったりもする。

真夜中に近い時刻、滅多に他の人間とすれ違わないような道を好きな音楽だけを相棒にただただ歩く。

なんて地味で、罪の無い人生なんだろう…