或る日、JRの駅から次の駅まで、一駅分くらいなら楽に歩けるんじゃないか、と思いついた。

普通の人ならそんなことを考えたりしないだろうし、もし考えついたとしても身についた常識が実行することに二の足を踏ませるだろう。

しかし残念ながらおれにはいささか普通じゃない思考回路が、多分生まれつき備わっているらしく、思いついてしまったし、思いついたからには実行してしまう、社会人として何の役にも立たない方向に対してだけ働く実行力もある。

そんなわけで、去年あたりから少しずつ自分だけのプチ企画、『駅から駅まで歩いてみよう』を実行しつつあって、今日はその第五弾、『沼津駅~三島駅編』をやってきた。

今まで『沼津駅~片浜駅編』『富士駅~吉原駅編』『東田子の浦駅~吉原駅編』『片浜駅~原駅編』を実行してきた。

一駅分も歩けば、膝は痛み、一度半分はがれてやっとまた生えてきた足の親指も痛み、今の季節なんか寒いし、住宅街を歩いて誰かとすれ違えばうさん臭い目で見られ、前を歩く子供は走って逃げ出し、犬は吠える。

文字通り、ただ疲れるだけで何の収穫もないんだけど、いいことが一つあるとすれば、普段は見ることの無い風景の中を歩ける、ということ。

一応目的地があるのでなるべく最短距離を歩く。
東京の山手線あたりと違って静岡の片田舎の在来線は一駅あたりの距離も長い。
最低でも5km以上はあるだろう。
しかも線路沿いをまっすぐ次の駅まで向かって歩けるわけではない。

とりあえず方向を見極めやすいように、駅に近い大きめの道路に出て歩き始める。
ただ、大きめの道路、というのはいずれ必ず線路沿いから大きく逸れていく。

日本道路公団には、駅から駅まで歩くひま人のためになるべく線路沿いに舗装された道路を作ろう、なんて発想はない(推測)。

そこである程度の距離を歩いたら軌道修正をして、線路に近づく脇道に入る。
すると道はどんどん細くなり、曲がりくねり、やがて住宅街へと入っていって、自転車を押して歩くおばあちゃんや、子供と一緒に犬の散歩をする比較的若いお母さんとすれ違う。

おばあちゃんは、自転車から手を離したら自転車と一緒にパタンと倒れてそのまま起き上がれないんじゃないか、というくらい自転車にすがりながら歩いていたりする。
多分目的地までサドルにまたがることはないんだろう。

話がそれた。

住宅街の道、というのはこれはもう、おれはどこに向かっているんだ、と方向感覚が狂うほどに曲がりくねる。
しかもいくつにも分岐して、優柔不断なおっさんに間断なく決断を迫ってくる。

そうなると頼りになるのは、自分の勘だけ。
自分なりの根拠に沿って、あっち、いやこっちと分かれ道の一方を選びながら進む。

静かで平和な住宅街を平日の午後、時々立ち止まっては、キョロキョロとプレーリードッグみたいに首を廻らして自分の行き先を確かめているその姿は我ながら怪しい。

おれなら、こんなおっさんを見かけたら速攻で警察にタレこむだろう。

こんな訳の分からないプチ企画を始めるだけあって勘だけは良く、今まで行き止まりの道に入って誰かの家の庭に侵入するなんて事態には至っていない。
 
今日歩いた『沼津駅~三島駅』は以前日記にも書いたんだけど、一度踏破しようとして挫折している。

その時には大きめの道路を歩けば間違いないだろう、と途中まで歩き、半分ほどの場所でバス停を見て、自分がどんどん目的地の駅から遠ざかっているらしきことに気づいて、心がポキン、と音を立てて折れてしまった。

今日はその失敗を踏まえての再挑戦。
そして、見事に踏破に成功した。

途中、何人ものおばあちゃんとすれ違い、何人ものお母さんたちから胡散臭い目でにらまれ、何人もの子供たちが走って逃げ出し、何匹もの犬から吠えられた。
警官から指差され、パトカーは俺の名前を呼びながら追いかけてきた(嘘)。

時間にすると、多分二時間くらい。
歩き始めた時には、まだ明るかった空は真っ暗になっていて、少し悲しくなった。

三島駅の中に一度入って自分の中でゴールのテープを切り、三島駅近くで夕食を食べて終了。

そして三島駅から電車で自宅のある街の駅まで。
もちろん途中で沼津駅も通過するわけで、この無駄な体力と時間の使い方がなんとも贅沢。

とはいえ、Bに勤めている時と違って休日はせいぜい隔週で週2日。
貴重な貴重な休日に、こんなヘトヘトになるまで歩いて、自分はいったい何をしているんだろう、と思わないでもない。

ないんだけれども、もう次の企画

『三島駅~函南駅編』もしくは『原駅~東田子の浦駅編』

へ向けて心は動きつつある。

あ、そこ、この日記を読んでくれる知り合いの女の子たち、引かないように。

「あの人ってやっぱり…」