Eiji Murakami's BLOG


大阪府の市長の中でも様々なところで噂を耳にする倉田市長です。

その倉田市長が物言いました。



ニュージーランドから帰国 してみたら、京都大学教授の藤井聡氏なる人が書いた「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」 なるものが盛り上がっていました。
「ヘドロチック」発言ばかり話題になりますが、そもそも「7つの事実」とやらが(僕は“ヘドロチック”のことを知る前に読んだのですが)、正直、どれも「え?」という内容でしたので、以下、順番にコメントしておきます。


【事実1】今回の住民投票で決まっても,「大阪都」にはなりません.

“大阪府の名称は住民投票では変わりませんよ”って話。
・・・これを一番にもってくる時点で、正直、唖然(@_@)としました。
名称なんてどうでもいいのです。それは5年前に
「『大阪“都”構想』をどう思う?」 で、僕自身が「自治体呼称としてのネーミングはやはり『大阪府』が好みですが」と書いたとおり。中身が大事。
それを「事実1」とか言って最初に大々的に主張されてる時点で、学者さんが書く主張として、あまりにアホらしくてビックリしました。

【事実2】今の「都構想」は,要するに「大阪市を解体して五つの特別区に分割する」ことです.

そのとおり。問題の本質は、京都府全域(人口255万人)を上回る異常な規模の「大阪市」(267万人)が、狭いのに「大阪府」と縄張り争いするという構造的歪み。府・市のどっちかが悪いとかじゃなくて、構造が悪い。
その構造問題の解消手法が特別区化。今も昔も都構想はまったく同じ。5年前に
「『大阪“都”構想』をどう思う?」 で書いたとおりです。
なお、府市・都区の仕事の分担(誰が仕事をするか)が変わるだけで、必ずどこかの部署がこれまでどおりの行政サービスをしますから、大阪市民が○○区民になっても不利益はありません。むしろ○○区役所は(箕面市役所のように)コンパクトで身近なものになります。

【事実3】年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」します.

この不見識には驚きました。
大阪市民も大阪府民でしょう?住民は、大阪市(区)からでも、大阪府(都)からでも、ちゃんとサービスが充足されるなら、どちらからでもいいはずです。そして、住民は、民主主義を通じて「市(区)」「府(都)」をコントロールします。
それなのに、今の大阪市の2200億円分のサービスが、どこか大阪市民の手の届かないところへ行って使われてしまうような「流出」という表現。“特別区に権限がないから、大阪市「外」に流出する”という飛躍したロジック。
“「都」は大阪市(区)民にはサービスを一切提供しない”(区民≠都民)という完全に誤った立場からの説明としか考えられません。
これは、不見識か、作為的か、どちらかとしか言いようがないです。

【事実4】流出した2200億円の多くが,大阪市「外」に使われます.

これは、何回読んでも意味がわかりません。なにを根拠に言ってるのか、藤井聡氏の書く「都道府県の財政運営の『法的常識』」なるものがいったいなんなのか、誰か教えてほしいです。
・・・というか、京都大学の教授ともあろう人が「7つの“事実”」と称して書くことじゃないでしょう。だって、文末が「・・・可能性も,十二分以上に考えられるわけです」ですよ。つまり、事実じゃないじゃないですか(笑)。
これはさすがに脇が甘すぎるんじゃないですか。7つのなかで最もツッコミどころ満載の「事実」でした。

【事実5】特別区の人口比は東京は「7割」,でも大阪では「たった3割」

当たり前です。密集する都市部では、人口は面積に比例します。23区の面積は東京都全域の“28%”、大阪市の面積は大阪府全域の“たった12%”ですから、7:3の規模比率もキレイに一致します。
面積が“たった12%”で居住人口も「たった3割」の大阪市に、大阪全域から労働力が流入することで、大阪の経済は支えられています。従って、藤井聡氏のいう「手厚い行政」は、面積「たった12%」の大阪市域だけでなく、より広域で行われるべきです。
そして、藤井聡氏は“面積12%に重点的に配慮することが大阪のためになる”という考えのようですが、それは違うでしょ。大阪の場合、富を生み出すエリア(都心)を、いかに12%以上に広げて、関西全体の人たちを受け止めて発展できる都市インフラを構築できるか?を考えなければダメでしょう。
もう少し将来を考えてほしいところです。

【事実6】東京23区の人々は,「東京市」が無いせいで「損」をしています.

最後のほうになるにつれ、無理やり感が高くてイヤになってきます。
「もしも『東京市』だとしたら,東京都心はもっとさらに強烈な集中投資が進んでいる」とか書いてあるんですが、現実的に、これ以上なにを東京都心部に投資しろというんですかね。
要するに“大阪市内に住んでる人だけが得をすればいい”、“富が余っても絶対に周辺に投資はしないぞ!”という主張なわけですが、面積12%しかない狭い大阪市だけでどう発展しようというのか?と問いたいです。

【事実7】東京の繁栄は「都」という仕組みのせいでなく,「一極集中」の賜(たまもの)です.

これには驚きました。・・・これは書くべきじゃなかったと思います。
言うに事欠いて、“大阪は努力せず諦めろ”ってことでしょう?
誰も、行政組織が「都」に再編されたからって、いきなりバラ色になるなんて思ってませんよ。今までより少しでもマシな仕組みにして、ちょっとでも大阪の停滞を打破しようよって、ささやかな希望だけです。
それなのに藤井聡氏は、「そもそもの経済規模が全く違うのからなのです」「人口についても経済規模(GDP)についても,大阪市と東京23区との間には,実に4倍前後のもの巨大な格差があるのです」「首都東京に,あらゆるモノが一極集中している」「これが,東京23区の豊かさの秘密です」などと、一生懸命に東京の凄さを説き、“大阪には無理だから”、“努力しても無理だから”と教えてくださってるようです。
要するに、大阪はどんなに頑張っても無理なんだから、改善する努力すら無意味だから諦めろよ、と。・・・これはいただけない。


以上、最後のほうは(大阪で政治に携わってる者として)ちょっと腹立たしくなるのが自然だと思います。
万が一、この
「大阪都構想:知っていてほしい7つの事実」 なる主張に賛同する大阪の政治家がいたら、それは辞めていただいたほうが大阪のためになります。・・・特に「事実7」の記載はクリティカル。

さて、現在、藤井聡氏は、大阪維新の会からの公開討論の申し入れに対して、
「私の議論のどこが間違っているのか何の指摘もありません。これでは討論を始めることすらできない。」 と書いています。
正直言って、橋下市長ほか大阪の政治家が、指摘する気すら失せているだろうことは、上記のとおりよくわかります。・・・それでも誰か書いといたほうがいいかなと思ったので、(僕は大阪維新の会じゃありませんが)大阪都構想に賛同する身として、マジメにコメントしておきました。

是非の議論は大歓迎です。反論いただけるならどうぞ。
(なお、僕は仕事柄、公開討論などもお受けできますので。)
いずれにせよ、5月17日に向けて、議論が熟す一助となれば幸いです。