6月2日朝、日韓の旅行業界関係者が顔をそろえたソウル中心部のホテル会議室にピリピリした空気が流れた。日本側の全国旅行業協会(ANTA)会長の二階俊博元経済産業相が、韓国側に不満をぶつけたためだ。

 「現状の日本と韓国の関係は異常だ。全て原因は日本にあると、怒られっぱなしでは観光する気にならない。日本から観光客が減っているのは、分かりきっている。これをどう打開するかを日本も考えるが、韓国側にも考えてもらわなくては」

 二階氏の怒りには前段があった。

 前日、ソウル市内で開かれたNHK交響楽団のコンサート会場の周辺で、韓国の市民団体が二階氏を名指しして歴史問題に関する日本への要求をアピールしようとしたのだ。警備されながら会場入りした二階氏は、文化交流の場で政治的な主張が行われたことに憤慨していた。

韓国はスポーツでも文化交流でもこう言った事が一番大きなマイナスに繋がると思います。政治的な場での主義主張は問題ないのですが、こうやって場外乱闘のやり方は正しくないと思います。



 会議の場で初めて事情を知った韓国観光公社の卞秋錫(ビョンチュソク)社長は「そうした状況があったことについては、おわびしたい」と応じるほかなかった。

 訪韓日本人客は、10年303万人▽11年329万人▽12年352万人--と順調に増えていた。しかし、当時の李明博(イミョンバク)大統領が12年8月に大統領として初めて島根県・竹島(韓国名・独島)に上陸すると、同年の後半から減少し始めた。

 13年には275万人と前年比21・9%も減った。今年に入っても1~4月のデータは前年同期比14・3%減で、歯止めはかかっていない。

 12年末からの円安で、日本人客にとって韓国での買い物が割高になったことも背景にはある。だが、韓国観光公社東京支社の担当者は、日本でのマーケティング調査の結果などから「要因としては両国関係の悪化の方が大きい」と断言する。落ち込みの大きさも、円安だけでは説明がつかないという。

 結局、その日の会議では、韓国側が8月に日本の関係者をソウルに招待し、観光関連のシンポジウムを開催して打開策を共に考えたいと提案。また、日本側も来年2月に日韓観光フォーラムをソウルで開き、日本から1000~2000人規模の業界関係者を訪問させるとの計画を伝えた。

 こうしたイベントを通じ、観光交流を活発化させたい考えだが、実際の観光客増につながるかどうかは、日韓関係の政治状況も絡み先行きは不透明だ。