東洋経済オンラインで、村井英樹が取り組む年金改革について取り上げていただきました。

 自民党の厚生労働部会で改革を主導する小泉進次郎議員、田畑裕明議員、村井英樹の3人の若手議員のインタビュー記事です。

 ぜひご覧ください。

https://toyokeizai.net/articles/-/261603?display=b

 

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小泉進次郎が描く公的年金「大改造計画」
 人生100年時代の安全網をどのように築くか


 2018年10月から自民党の厚生労働部会長を務める小泉進次郎・衆院議員が、積極的な公的年金改革に取り組んでいる。「人生100年型年金」を持論とし、今年4月に実施される「ねんきん定期便」の大幅改訂を実現させた。
 今後の年金改革には何が必要なのか。また、改革にどんな狙いがあるのか。同部会で改革を主導する小泉氏と村井英樹氏、田畑裕明氏の3人の若手自民党議員に話を聞いた。

――小泉議員が厚労部会長に就任して約2カ月後に「ねんきん定期便」の改訂が決まりました。

小泉進次郎(以下、小泉):われわれは2016年10月に人生100年型年金を提言した。人生100年型年金では、「長く働くことが不利益にならない」「一人ひとりの生き方が多様化する中で、年金を何歳からもらうかは個人が選択できるようにする」といった考え方を示した。

「ねんきん定期便」を大改訂
 現行の公的年金制度は、受給を開始する時期を60歳から70歳の間で選べるが、意外なことにそんなに知られていない。65歳(標準受給開始年齢)など一定の時期にもらい始めると思っている人が多い。さらに60歳で受給を開始(=繰り上げ受給)すると、年金額が65歳受給開始に比べ30%カットされ、70歳まで受給開始を我慢(繰り下げ受給)すると42%アップするが、これはさらに知られていない。

 厚労部会長となって、まずはねんきん定期便の見直しをやろうと思った。年金は人生設計に大きくかかわるもの。知らせるべき情報を届け切ることが大事だが、現在のねんきん定期便には30%カットや42%アップのことはほとんど載っていない。全面改訂に匹敵する見直しを目指した。

――見直しの内容は?

田畑裕明(以下、田畑):今回、大きく3つの部分で見直しを行った。ねんきん定期便、保険料未納者への対応、受給を開始するときの年金請求書の3つだ。ねんきん定期便はシンプルに、イメージしやすいよう図表を入れ、繰り上げ・繰り下げ受給について、国民の皆さんにはこんな選択肢が用意されていますよとしっかり伝える努力をした。

 厚生年金では保険料未納者は皆無だが、残念ながら国民年金では未納が発生している。未納者への対応では、行動経済学の「ナッジ(nudge)」の考え方(ひじで軽くつつくようにちょっとしたきっかけを与え、人によい行動を取らせること)を取り入れ、単に「未納ですよ」とアプローチするのではなく、「98%の国民は納付していて、あなたは2%の未納者の1人です」と知らせることにした。「もっとたくさんいると思ったら、そうなのか」と行動変容を促すことを目指している。

村井英樹氏(以下、村井):ねんきん定期便とは、保険料を納め始めるとその人の誕生月に毎年送られてくるハガキで、保険料納付実績や将来受給できる年金見込み額などが記されている。節目年齢といわれる35歳、45歳、59歳のときは、さらに封書に入ったさまざまな資料が送られてくる。

 見直し後は、図を使いながら「年金の受給開始時期は、60歳から70歳まで選択できます」「年金受給を遅らせた場合、年金額が増加します(70歳を選択した場合、65歳と比較して最大42%増)」と大きめの文字で入れている。節目年齢のときの定期便と年金請求書の送付時には、「70歳で最大42%アップ」を知らせるリーフレットも同封する。

年金請求書をそのまま返送してはダメ
――年金請求書の内容も変わります。


村井:年金請求書は、65歳時点で送られてきて、必要事項を記入して送り返すと年金の受給が始まるというもの。恐ろしいことに、これまでのものには「提出が遅れると65歳以降の年金のお支払いがいったん止まりますのでご注意ください」と書いてある。これを見たら、大抵の人は記入して送り返すだろう。

 しかし、繰り下げ受給をするためには、実はこれを送り返してはいけない。結果的に、現状では繰り下げ受給を選択する人は全体の1%程度しかいない。見直し後は、「老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方の繰り下げを希望される方は、このハガキの提出は不要です」という一文を入れることにした。

――現在はまだ65歳以前から特別支給の厚生年金(報酬比例部分)をもらっている人がいるため、「ハガキを提出しないといったん止まります」という意味で、先の文言が入っています。

村井:そのとおり。だが、年金をもらえなくなると勘違いして送り返す人が絶えない。

小泉:繰り下げ受給は1%しか選択されていないと言われるが、これは情報がしっかり伝えられていないからだ。繰り下げ受給の増額を知ったらどのような変化が出るのか、4月以降、期待をもって見ていきたい。

 受給開始時期の選択制について、若い世代とすでに受給している世代では受け止め方が違う。若い世代は「70歳で最大42%アップ」という話をすると、まず「本当ですか」と驚き、それとともに「だったら、70歳まで働けるようにがんばろう。聞いてよかった」とすごく前向きな受け止めが多い。一方で、高齢世代からは「早く言ってよ。それを知っていたらあと1年でもがんばったのに」と言われる。もしも繰り下げ受給の情報をきちんと届けていれば、人々の行動や人生設計は変わっていたはずだ。

――世界的に高齢化で年金額が抑制される中、スウェーデンでは「1980年生まれの人は引退時期を68歳10カ月まで延ばせば、1930年生まれの人と同じ給付水準を維持することができる」といった情報が毎年公表されています。

小泉:あれはいいアイデア。これくらいの年金をもらうためにはこれくらいまで働けばいいと自分の人生設計の中でイメージすることができる。今回は限られた時間の中で行ったが、スウェーデンのようにさらに改善していく不断の取り組みが必要だ。


――繰り下げ受給では、現在の70歳上限を75歳までに広げることなどを政府は検討しています。

小泉:現在は上限が70歳で最大42%アップだが、1歳遅らせると約8%アップになるので、仮に71歳受給開始なら50%アップになる。有識者の間には「年齢の上限は不要」「当面は75歳まででよい」などいろいろな意見があるが、選択できる年齢の幅を広げていくことは間違いない。

在職老齢年金制度に手をつける
――今年は5年に1度行われる公的年金の財政検証の年です。さまざまな改革プランが議論されていますが、働きながら年金を受給すると収入に応じて年金額の一部または全額が支給停止となる「在職老齢年金制度」の見直しもその1つです。


小泉:人生100年時代は、長く働くことが不利益にならず、一人ひとりの生き方に合わせて前向きに働くことができる環境が必要だ。その意味で、働いていて高い所得があるから、年金額はカットするという在職老齢年金制度は手を付けないといけない。

――65歳以上の在職老齢年金制度を廃止すると、高所得者の恩恵が非常に大きく、安倍晋三政権は高所得者優遇批判への懸念から同制度の見直しについて消極的になっています。

村井:年金には高齢者の所得保障という側面もあるため、高所得者の方に年金の一部を支給しないという在職老齢年金制度には一定の合理性があるのはわかる。だが、セットで考えるべきだ。

 たとえば、医療・介護の保険料や自己負担の支払いを所得に応じて負担する形に整理することができれば、高所得者は年金をたくさんもらえるが、医療・介護を受けるときには応分の負担を求められるので、全体としては公平な仕組みとすることができる。在職老齢年金制度だけを取り出して、高所得者優遇というのは視野の狭い議論だ。医療・介護や税制まで含めた、トータルな負担を見ていく必要がある。

田畑:高齢者就業の促進に関してもっと旗を振らないといけない。経営者には昭和モデルとして賃金は安いほうがいいという考えがあるが、高齢者についても意欲と能力で賃金が決まる方向にもっていく必要がある。そのときに、高い給料をもらうことを躊躇させる在職老齢年金制度はネックになる。また、繰り下げ受給を選択した場合でも、在職老齢年金の支給停止部分は、繰り下げによる増額の対象から外される制度となっている。これでは、繰り下げ受給を選択する人が減ってしまう恐れがある。

――高齢者就業の拡大に対応し、国民年金の保険料納付期間を現行の最大40年(20歳~60歳)から45年(20歳~65歳)に延長する改革案もあります。ただ、これについても新たに年1兆円以上の国庫負担が必要となることから、政府の議論は低調です。

村井:国民年金の納付期間延長を行わなくても、現状で70歳まで繰り下げれば年金額は最大42%アップになる。まずやるべきは、繰り下げの定着や75歳までへの繰り下げの拡大だ。そのため、新たな国庫負担が必要となる基礎年金部分についてはすぐにそれを行うことにはならないだろう。

――短時間労働者や非正規労働者にも厚生年金を適用拡大していくことが検討されています。

小泉:われわれは、それを「勤労者皆保険制度」と呼んでいる。週20時間以上働いている人であれば、誰にでも厚生年金の適用を劇的に拡大していこうというものだ。それで将来、(厚生年金より給付の少ない)国民年金だけにとどまっていく人を減らしていく。勤労者皆保険制度は、人生100年時代のセーフティーネットみたいなものだ。

複線型のライフプランに対応した年金
小泉:私はよく縦の改革と横の改革が必要だと言っている。繰り下げ受給や在職老齢年金制度の廃止などによって高齢者就業を促進するのは、年齢という縦の軸を延ばしていくものだ。これに対して、労働のモビリティーを高めるための横の改革もある。国民一人ひとりが人生の中で切り替えしやすくなるような改革を進めたい。

村井:横の改革としては、副業兼業の解禁があるが、勤労者皆保険制度もそれがあることによって、どこの職場に移ってもしっかりと社会保険で守られるため、労働のモビリティー促進につながる。

――高齢者を含め、働き手が充実することは社会保障制度の維持・強化にとって不可欠です。

小泉:高齢化で社会保障費が増える中、この国はこれまで「歳出減か? 負担増か?」という二者択一でやってきた。だが、われわれは社会保障の支える側と支えられる側のバランスを変化させるアプローチを取っている。

村井:なぜ、歳出減か、負担増かという従来型の議論になるかと言えば、少子高齢化によって支える側と支えられる側のバランスが崩れるからだった。しかし、仮に75歳まで働く社会をつくれれば、支える側が増えて支えられる側が減るため、2040年などの将来でも実は支える側と支えられる側のバランスは現在よりもよくなることがわかっている。ここをダイナミックに変えるために、何ができるか。ねんきん定期便の改訂や在職老齢年金制度の廃止、厚生年金の適用拡大などはそのためにある。

田畑:生産年齢人口の定義についてもそろそろしっかり議論しないといけない。15歳~64歳という従来の区分けが、実社会とそうとう乖離しているのは確か。この昭和モデルでは対応できない。

――日本老年学会・日本老年医学会は2年前に高齢者の身体状況や活動能力を科学的に検証した結果、若返り現象を確認し、高齢者の定義を65歳以上から75歳以上に見直すことを提言しました。

小泉:そうだ。前提条件が変わっているのに、変わっていないという形で議論を進めてきたのが、「歳出減か? 負担増か?」という二者択一論だ。5~10歳くらいの若返りが進んでいるのだから、それを踏まえれば、今まではできなかったアプローチがむしろ当たり前になってくる。

人生100年型年金の仕掛け
 日本で高齢者を含めて「あなたは何歳まで働きたいですか」とアンケートを取ると、「働ける限り働きたい」という人がいつもいちばん多い。労働を苦役と考える価値観の国とはまったく違う。働くことが前向きにとらえられる環境が絶対に必要だ。

 だが、その働き方がモーレツ社員だったり「24時間働けますか」という働き方だったりしてはだめだ。一人ひとりの生き方やスキル、環境に応じた働き方が大事で、勤勉でまじめな日本人の力を最大限引き出すような社会をつくっていくことが重要。人生100年型年金ではそのような制度的仕掛けをいろいろと入れていく。

――年金に対する国民の不信感が強い状況は変わりますか。

村井:今年夏に発表される公的年金の財政検証の結果は予断を許さないものの、就業者数の増加や厚生年金の適用拡大の効果が、将来の給付水準底上げにつながるのではないかと期待している。支える側の比率を高めていき、繰り下げ受給が当たり前になれば、公的年金の給付の十分性や安定性は非常に強固なものとなる。人生100年型年金をつくることが、将来の安心を確実なものとすることにつながる。こうした考え方で年金改革に取り組んでいく。