毎日新聞・政治プレミアでの村井の連載、本日は最新版をお届けします。今回は医療・介護がテーマです。是非ご覧ください。


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健康づくり「ゴールド免許」で生活習慣病を減らそう~若手議員が新たな社会保障改革に挑む


 

 今回は、医療介護において、予防健康づくりの自助努力を支援する必要性について説明します。

 我が国の社会保障・財政にとって、最大の課題が医療・介護の負担の拡大です。年齢を重ねるほど、医療・介護の利用が増えますので、日本全体で高齢者の数が増えれば、それだけ医療介護の費用も増えていきます。

 2018年度に、医療は39.2兆円、介護は10.7兆円の合計約50兆円になりました。GDPの約10分の1を医療と介護に使っていることになります。政府では、2040年度に医療は約70兆円、介護は約25兆円、合計で約95兆円になると推計しています。

 なお、この推計は、医療技術の高度化が進む可能性などは想定していませんので、これより増えるかもしれないことに留意が必要です。また、GDPが2040年度に約800兆円まで増えることを前提にしていますので、経済状況によっては大きく変わり得ます。

 いずれにしても、これから20年の間に45兆円も負担が増えるわけですから、これは大変です。毎年2兆円以上増える計算になりますが、一方で現役世代の数は毎年100万人ずつ減っていくため、医療・介護を支える現役世代の負担は重くなる一方です。

 

予防徹底で医療費を減らす

 第1回で述べたように、こうしたスタティック(静的)な費用推計を前提に、医療・介護の改革を議論すると、増える負担を、高齢者、勤労者、企業、医療・介護関係者、政府、自治体の間で「押し付け合う」ことが中心になります。そして、押し付け合いの結果、結局は、「将来世代」に負担を先送りしがちになることは、これまでの歴史が証明しています。

 今後の医療・介護を考えるにあたっては、現状を前提としたスタティックな発想では限界があります。むしろ、医療・介護の役割を変えて、できるだけ医療や介護にお世話にならないよう、個人の行動を変えることで、負担を抑える発想が必要です。

 今や、医療・介護の多くは、認知症や、がん、糖尿病などの生活習慣病への対応になっています。医療費で見ると、約11兆円と3分の1程度です。これらは、「生活習慣病」と呼ばれている通り、普段から健康管理を徹底していれば、予防や進行の抑制が可能なものも多いと言われています。

 例えば、糖尿病には、1兆円を超える医療費がかかっています。人工透析が必要になると、1回50万円程度の費用がかかり、年間では1人あたり500万円程度の公費負担が生じてしまいます。糖尿病の患者が増えることを防がずに、高価な医療を利用し続ければ、医療財政は破綻してしまいます。健診や保健指導を通じて、早期の生活習慣の改善に取り組むことが必要です。

 認知症も、一度発症してしまうと、介護する家族は大変な負担ですし、認知症患者は増える一方ですので、患者を受け入れる介護施設を増やすことも簡単ではありません。しかし、愛知県武豊町では、介護予防のモデル事業として、地域の高齢者にコミュニティーサロンへの参加を促進したところ、参加者は非参加者に比べて3割も認知症の発症率が少ないということが分かりました。このように、介護予防を徹底すれば、本人の生活の質を高め、社会的コストも抑えられるのです。

 今後の医療・介護は、「病気になってから治療する」「認知症や要介護の状態になってから介護する」のではなく、「病気にならないようにする」「認知症や要介護にならないようにする」といった自助努力を支援していく方向に、思い切って重点を移すことが必要です。こうした取り組みにより、生活習慣病にかかる医療費の3分の1が節約できれば、4兆円程度もの医療費を削減できるのです。

 

健康管理してきた人の自己負担を軽く

 しかし、現行制度では、健康管理をしっかりやってきた方も、そうではなく自堕落に生活して生活習慣病になってしまった方も、同じ自己負担で治療が受けられてしまいます。これでは、自助を促すインセンティブ(動機付け)が十分とは言えません。

 今後は、健康診断を徹底し、早い段階から保健指導を受けていただく。そして、健康維持に取り組んできた方が病気になった場合は、自己負担を低くすることで、自助を促すインセンティブを強化すべきです。

 運転免許証では優良運転者に「ゴールド免許」が与えられます。医療介護でも、ITを活用すれば、個人ごとに健診の受診履歴等を把握し、健康管理にしっかり取り組んできた方を「ゴールド区分」にできるはずです。いわば医療介護版の「ゴールド免許」を作り、自己負担を低く設定することで、自助を支援すべきです。もちろん、自助で対応できない方にはきめ細かく対応する必要があることは言うまでもありません。

 医療・介護の持続可能性は、社会全体で、いかに予防投資を増やし、個人の行動を変えられるかにかかっています。今回は健康ゴールド免許を議論しました。もちろん、個人の健康管理を十分把握できるかどうかなど課題は多く、引き続き制度の詳細を詰めていく必要があります。大事なことは、個人のインセンティブを変えて、予防投資を増やすことで、ダイナミックに経済社会を動かし、医療や介護の費用を抑えていくという発想です。今後も、こうした新しい発想で、医療介護改革に取り組んでいきたいと思います。