毎日新聞・「政治プレミア」の村井の連載については、当ブログでもこれまでご案内してまいりましたが、記事が閲覧できない場合があるとの声をお寄せいただきましたので、ブログ本文に再掲致します。本日より順次ブログにアップ致しますので、是非ご覧ください。

 

 まずは、第一回目、「人生100年時代の全世代型社会保障に」です。

 

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人生100年時代の全世代型社会保障に~若手議員が新たな改革に挑む

 

消費増税「一本足打法」は危険

 今回から数回かけて、自民党内の若手議員有志(2020年以降の経済財政構想小委員会)で検討してきた「新しい社会保障改革」について説明し、皆様から忌憚(きたん)のないご意見をおうかがいしたいと思います。

 

 社会保障改革というと、人口ピラミッドが逆転する中で、給付のカットとか、負担の拡大など、「暗い話」になりがちです。

 

 高齢者が増加し、社会保障の給付が増える。現役世代の負担を抑えるため、給付をできるだけ効率化し、無駄を省く必要があります。どうしても必要な負担は、全ての世代が公平に負担すべきで、特に消費税の引き上げが不可欠です。

 

 これが、今の社会保障改革のスタンダードな議論です。どうしても、ゼロサムゲーム、負担の押し付け合いになりがちです。

 

 もちろん、社会保障や財政の持続可能性を高める改革は必要です。現状は、国債発行で借金をしながら社会保障を運営している状況です。将来世代へのつけ回しはやめるべきですし、政治家として難しい改革から逃げるつもりはありません。

 

 しかし、消費税引き上げだけの「一本足打法」にこだわり過ぎることも危険です。

 

 2040年度に社会保障給付は190兆円となり、国民負担は国内総生産(GDP)比3%ほど拡大することが見込まれています。これを全て消費税で賄うとすると、単純計算では、2040年度に消費税を16%程度まで引き上げる必要があります。

 

 しかし、平成の30年間を通じて、消費税引き上げにより増収になったのは1回しかありません。8%に引き上げた前回の1回だけ、なのです。30年でたった1回という重い事実を考えると、消費税の更なる引き上げは、今後も決して簡単ではありません。消費税の議論から逃げるべきではありませんが、消費税だけしか議論しないことも無責任です。

 

「20年休む」だけでない生き方

 今必要なことは、社会保障をスタティック(静的)に議論するのではなく、ダイナミックに考えることではないでしょうか。すなわち、現在の経済社会構造が変わらないことを前提に、負担増や給付カットを考えるのではなく、社会保障改革によって個人の行動の変容を促し、経済社会構造をダイナミックに変えることで、結果的に社会保障の規模自体を抑えていく、という発想が重要です。

 

 特に、「人生100年を生きる時代」を迎える中で、「20年学び、40年働き、20年休む」という、昭和の単線型人生モデルを変えていくことが重要です。より柔軟な学び方、働き方、休み方を支える社会保障制度を整備し、できるだけ長く健康に就労できる環境を作る。これが実現すれば、社会保障の規模自体も抑えることが出来るでしょう。

 

多様な選択「そっと後押し」

 その時に重要な考え方が「ナッジ」です。ナッジとは「そっと後押しする」ことを意味する英単語ですが、行動経済学では、個人がより良い選択を行えるように制度を変えて、社会問題を解決する手法をナッジと呼んでいます。

 

 例えば、年金制度を就労促進型に変えることもナッジです。我が国の年金制度は、65歳で退職することを前提に、65歳を標準的な受給開始年齢としており、多くの方は、特に何も意識せず、65歳から年金を受給しています。

 

 しかし、実は、今の年金制度でも、60歳から70歳までの間に、個人は受給開始のタイミングを自由に選択することができます。そして、年金受給時期を繰り下げるほど、年金額が増える仕組みになっています。問題は、ほとんどの方がこうした仕組みをご存じないことです。

 

 人生100年時代には、70歳以降も、年金をもらわずに働き、将来の年金額を増やしたいと思う方が増えることが想定されます。こうしたニーズに応えるためには、働いている間はいつまでも保険料を納めることができ、自由に受給開始のタイミングを選択できるようにするような年金制度改革が必要です。そして、年金定期便を通じて、こうした仕組みを国民に丁寧に説明し、「働くほど年金が増える」ことを実感していくことが必要です。

 

 このような仕組みがあれば、自然と長く働こうと思う方が増えるでしょう。そして、高齢者の就労や社会参加が進めば、経済や社会保障の担い手を増やすこともできますし、健康な方が増えることで、医療介護の費用も抑えることができるのです。

 

 年金制度を就労促進型に改めるだけで、随分、違った景色が見えてきます。このような人生100年時代を見据えた「新しい社会保障改革」は、待ったなしの課題なのです。

 

 次回以降では、自民党の若手議員を中心に検討してきた改革の内容を、若干の私見も交えながら、丁寧に説明していきたいと思います。