昨日出席しました、さいたま市内の討論会で民進党大野議員から、平和安全法制に関して、いわゆる「新3要件」の具体例についてのご質問がありました。 


ご質問は、新3要件(限定的な集団的自衛権が行使できる場合)の例として、安倍総理は、「在留邦人を乗せた米国船舶が公海上で武力攻撃を受けている」場合を挙げているが、中谷防衛大臣は、新3要件の認定に当たっては「(攻撃を受けている米国船舶に)邦人が乗っているか乗っていないかは関係ない」と述べており、総理と防衛大臣の答弁は矛盾しているのではないか、というものでした。


この点については、非常に精緻な議論がなされているところでしたので、確認してお答えするとしましたが、結論としては、矛盾していないと考えます。


安倍総理の答弁(平成27年2月16日衆議院本会議)は、

「いかなる状況がこれに該当するかは、・・・全ての情報を総合して客観的、合理的に判断する」と述べたうえで、「例えば、我が国近隣で武力攻撃が発生し、米国船舶は公海上で武力攻撃を受けている、攻撃国の言動から我が国にも武力攻撃が行われかねない、このような状況においては、取り残されている多数の在留邦人を我が国に輸送することが急務となります。

 そのような中、在留邦人を乗せた米国船舶が武力攻撃を受ける明白な危険がある場合は、状況を総合的に判断して、我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況に当たり得ると考えられます。」

と、述べています。


一方で、中谷大臣の答弁(平成27年8月26日参議院平和安全特別委員会)は、

「邦人が乗っているか乗っていないか、これは絶対的なものではございません。また、この例も、これすらできなくていいのかというのを示した事例でありますが、総合的に判断するということで、邦人が輸送されているということは判断の要素の一つではございますが、絶対的なものではございません。」

と述べています。


これは、同じことを「オモテ」から言っているのか、「ウラ」から言っているかの違いはありますが、本質的には同じことを言っていると考えます。つまり、誤解を恐れず、あえてわかりやすく言えば、安倍総理は、「在留邦人を乗せた米国船舶が攻撃されているような状況も新3要件に当たる可能性がある。」という一方、中谷大臣は、「在留邦人を乗せた米国船舶が攻撃されていることだけをもって、新3要件に絶対当たるわけではない」と言っているにすぎません。これは、例えていうなら、「イチロー選手はヒットを打つ可能性が高い」ということと、「イチロー選手は常にヒットを打つわけではない」ということは矛盾していないことと同じです。


部分的な発言をとらえていえば、確かに国民の皆さんからはわかりにくい部分があったことは否定しませんが、我が国が武力の行使を行うという極めて重大、深刻な判断は、発生した事態の全体の状況を見て行うことが適切であり、その中で特定の状況(ここでいえば、在留邦人を乗せた米国船舶が攻撃されていること)だけを切り出して、○×を判断することは正しいとは言えません。


一方で、難しい法律の議論の中では、正確性を維持しながらも、具体的な例を出して説明しなければ、その必要性が国民の皆さんに伝わらない、という問題もあります。今回の平和安全法制の議論の中で、安倍総理が、この「在留邦人を輸送した米国船舶」の事例を出したのは、「これまでの法制では、日本が直接に攻撃を受けていない限り、自衛隊はこういう米国船舶の防護ができませんでした。この法制ができれば、今後はそういう船舶を守ることも、(状況によっては)できますよ。」と説明したかったということと私は理解しています。


例えば、朝鮮半島有事のような日本の平和と安全に直結するような事態において、全体の状況が非常に厳しくなっており、韓国や在韓米軍も攻撃を受けている、日本海で活動している米国艦船も攻撃されている、半島から逃げてくる日本人を乗せた船舶も攻撃を受けるかもしれない、日本もミサイルの攻撃を受けるかもしれない、などといった様々な要素を考慮して、自衛隊の活動の必要性を判断することになります。そうした状況においては、半島から逃げてくる在留邦人を含む民間人を乗せた船舶や航空機を自衛隊の部隊が警護するというオペレーションが必要になる可能性は誰も否定できないと考えます。今回の平和安全法制はそうした万が一の事態に備えるものであることをご理解いただきたいと考えます。


最近の世論調査では、今回の平和安全法制必要だとの御支持も徐々に広がってきているようです。引き続き、様々な疑問に丁寧にお答えして、皆様の御理解を得ていきたいと考えます。