勉強会を重ねてきたESG投資について、報告書を添付の通りまとめました。


ESG投資は、環境・社会問題等への積極的対応、年金基金等の利回りの最大化、海外からの安定的な証券投資の促進という3つの観点から進めるべきものであり、アベノミクスを支える「一石三鳥」の政策として打ち出していくことを提言しております。


安倍総理が9月末に国連演説を行いますが、GPIFを始め我が国のESG投資に対する取組を触れてもらえればと考えています。



 

ESG投資・国連投資原則勉強会 報告書


(はじめに)

ESG投資とは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)を評価・考慮して行う投資のことで、2006年4月に国連が「国連責任投資原則(PRI)」を提唱したことで、各国の年金基金・国際的な金融機関・機関投資家の間で投資規範として採用する流れが定着しつつある。


○本勉強会では、こうした世界的な流れの一方で、我が国ではESG投資が普及していない現状を踏まえ、ESG投資促進の必要性・ESG普及に向けた必要な施策について検討を行ったところ、以下のとおり報告する。

(我が国におけるESG投資の現状)

ESG投資については、世界全体の運用資産のうち20%超、欧州では約5割に達している一方で、我が国では運用資産の0.2%に留まっている。また、国連責任投資原則に署名をしている機関数も、世界全体の1397機関に対して、我が国は33機関に留まっている。

(アベノミクスを支える“一石三鳥”のESG投資)

ESG投資については、これまでその倫理的側面が強調されることも多かったが、ESG投資のリターンが通常の投資より有利であることが、様々な実証分析[1] の中で明らかにされつつある。我が国においても、①環境・社会問題等への積極的な対応、②年金基金等の利回りの最大化、③海外からの安定的な証券投資の促進の3つの観点から、ESG投資の普及を目指すべきである。

ESG投資効果①:環境・社会問題等への対応)

ESG投資の促進が、環境・社会問題等の解決に寄与していくことは勿論だが、こうした取組は、安倍政権の掲げる「日本再興戦略」とも極めて整合的でもある。環境分野では、温室効果ガスの排出削減・水素社会・蓄電池・省エネルギーの推進、社会的なものでは、女性・高齢者の活躍促進、若者の雇用対策、女性管理職増加に向けたポジティブアクション、ガバナンスでは、スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードの策定・普及など、ESG投資は安倍政権の政策課題に向けた取組を側面からサポートするものである。

ESG投資効果②:年金基金等の利回りの最大化)

ESG投資については、従来、外部経済性はあるが、被保険者の利益に合致するのかという議論があった。ただし、近年の実証検証を踏まえると、むしろ積極的にESG投資を行う方がリターンを長期的に最大化させる可能性が高い。従って、我が国の公的年金の運用にあたっては、「専ら被保険者の利益に沿って」行う必要(他事考慮が禁止)があるものの、ESG投資を行うことは法制上何ら問題ないと考えられる。

ESG投資効果③:海外からの安定的な証券投資の促進)

○国内企業への海外からの証券投資は、近年増加傾向にあり、我が国の上場株式に占める外国人投資家の保有比率は、安倍政権発足前の26.3%31.7%となっている。こうした流れをさらに加速させ、特に年金基金のような、国内企業や国内市場の安定的成長に資する長期的な投資を呼び込む必要がある。しかしながら、現状の国内企業のESGレーティングは 高いものではなく[2] 、このままでは海外年金基金のポートフォリオから外される可能性があるため、我が国企業においても早急にESG関連の取組の加速・情報発信を行っていく必要がある。

ESG投資促進に向けた政策面での対応)

○欧州では、年金基金に対し、ESG要素の考慮の仕方について開示を義務付けたところ、ESG投資が徐々に生命保険や投資信託に波及をした。我が国においても、公的年金が率先してESG投資を促進することで、企業年金・生命保険・投資信託運用会社等へと流れを広げていくことが重要である。


○この点、既に地方公務員共済組合連合会・公立学校共済組合において、ESGの観点を加味した運用を行っており、GPIF等他の公的年金運用機関においても同様の取組を広げていくことが、まずは大切である。

○また、2014年2月に策定されたスチュワードシップ・コードの原則3では、「ESGリスクを含めた投資先企業の状況の的確な把握」を求めており、2015年6月に策定されたコーポレートガバナンス・コードの原則2では、「ESG問題への積極的・能動的な対応」を促しているため、両コードの普及・定着も大切である。さらに、両コードについては、現在金融庁・東証で実施状況を確認するためのフォローアップ会議が開催されており、そうした会合の場でもESGへの取組を確認すると共に、必要に応じ、将来予定されているコードの見直しに反映させることとする。

○日本再興戦略にも記されている企業情報の統合的開示については、市場による評価を通じて各企業から創意工夫・差別化の努力を引き出し、ESG投資に資する情報を分かり易くかつ的確に投資家に伝える観点からも着実に推進していく。

(終わりに)

ESG投資は、これまで述べてきた通り、アベノミクスを支える“一石三鳥”の取組であることは勿論、これを強力に推進することで、戦後我が国が創りあげてきた「日本」のブランドイメージを高めることにも繋がるものである。その意味で、今年9月の国連総会での総理演説は、我が国の姿勢を示す大きなチャンスとなる。なお、普及にあたっては、評価基準の相対性を始めとして幾つかの課題も指摘をされているが[3] 、出来ることから着実に官民一体となった取組が大切である。


(以 上)



[1] ニッセイアセットマネジメント「企業統治を高める経営戦略」、MSCIMSCI ESG リサーチ 2015年8月」等

[2] アムンディレーティングによれば、日本企業のレーティングは、A~Gの7段階評価中、総合E,環境D,社会D,ガバナンスEに留まっている。

[3] 我が国におけるESGレーディングのあり方について検討を進めるべきとの意見もあった。