今日のブログは、再び財政健全化計画について。通常国会で一番力を入れている財政健全化計画については、私が事務局を務める行政改革本部(河野太郎本部長)として、特命委員会に対してこれまで3回の提言を行っておりますので、順次紹介をしていきます。
 
第1回目の提言は、3月27日に取りまとめを行ったもので、財政健全化計画の策定の前提となる、経済成長率・長期金利・税収弾性値等をどう見込むか等について検証を行い、内閣府が2月に発表をした「中長期の経済財政に関する試算」の成長ケースを基本にすることとしています。また、その上で2020年度のプライマリーバランス(PB)黒字化に向けての大まかな方向性について提言を行っています。
 
提言内容については、全文を掲載致しますが、主なポイントは以下の7点です。(1)2017年4月の消費税引上げを控え、歳出削減を中心とした議論が重要。(2)国・地方の重複等を除いたPB対象経費の2015年度から2020年度の純増額は15兆円であり、この15兆円が9.4兆円のPB改善を図る際の対象。(3)歳出改革にあたっては、A.社会保障、B.その他歳出、C.特別会計・独立行政法人等、D.地方財政、の4分野での取り組みが必要。(4)社会保障については、先ずは、イ)消費税引上げに伴う充実分等、及びロ)高齢化に伴う増加分を除いた増加部分(3.9兆円)を検討対象とすべき。(5)その他歳出については純増を前提とせず、また特会・独法等も対象とすべき。(6)そうした取組みの結果、9.4兆円のPB赤字削減は不可能ではない。(7)債務残高対GDP比の着実な引下げにもしっかりと目配りをするべき。
 

 

中長期試算の検証に関する報告と今後の課題
2015年3月27日
 自民党・行政改革推進本部
 中長期財政見通し検討委員会


行革本部では、昨秋に「中長期財政見通し検討委員会」を立ち上げ、財政健全化について議論を行い、本年1月に政調会長に対して4項目からなる報告を行った。
これを受けて党内に「財政再建に関する特命委員会」が設置され、あらためて、同特命委員会より、「中長期の経済財政に関する試算(以下、中長期試算)」(2月・内閣府)を『検証』するよう指示を受けたところである。
このため、2月26日より、有識者、関係省庁などからのヒアリングを行い、検討を続けてきたところであり、以下その結果を報告する。



1.マクロ経済前提の妥当性
...経済再生ケース(▲9.4兆円を議論のベースに)


(1) 中長期試算は、A一定のマクロ経済前提に基づくマクロ経済指標を置き、B「2015年度の国の歳入歳出予算」及び「2013年度の地方の歳入歳出決算」を一定のルールに基づいて引き延ばす、方法をとっている。
 
 
(2)マクロ経済指標については、経済再生ケース・ベースラインケースの2つのシナリオが想定されているが、経済再生ケースは、
A全要素生産性(TFP)をバブル期並みの上昇率(2.2%)としている
B労働力については、女性や高齢者の労働参加が着実に進展するとしている
 など、強気の経済前提を置いた結果、2016年度以降、名目3.6%程度、実質2.3%程度の経済成長が達成される形となっている。
この点については、経済前提が楽観的であるが、中期的に名目3%、実質2%以上の「成長」を目指す安倍内閣としては、政策的整合性の観点からは、一定の妥当性があるともいえる。

 

(3)なお、その際の税収動向については、そもそも中長期試算では、いわゆる税収弾性値の概念を採用せず、所得税、法人税等の税目毎に一定の方法で試算しており、その結果を事後的に税収弾性値に引き戻してみると、国税の税収弾性値は消費税の引上げ年度を除き1.0近傍で推移しており、保守的なものとなっている(地方も概ね同様)。一方で、
A今後、既定の税制改正によって弾性値が低い消費税や外形標準課税の税収が増加していくこと、
B一般的に弾性値が高いと言われる所得課税については、労働力人口の減少や社会保険料(控除)の増加等により税収が増えづらい構造になること、
 等を踏まえると、中長期では税収全体の弾性値が高まることは想定しにくく、中長期試算における1.0近傍の税収弾性値は妥当である。

 

(4)以上、経済再生ケースの経済前提は、予測としては楽観的なものであるが政策的整合性には一定の妥当性があること、これを前提とすれば歳入面では妥当な見積もりがなされていることから、本検討委員会としては、主として、経済再生ケースにおける国・地方PB赤字9.4兆円(2020年度)について検討した。なお、経済が目標とした高成長軌道を描けない場合も想定し、最悪、ベースラインケースについても対応できるように備えておくべきことは当然である。


2.歳出面の検証とそこから得られる財政健全化に向けての示唆
...社会保障の効率化は避けて通れない。


(1)PB改善のためには、歳入増、歳出減の両面からのアプローチが必要であることは論を待たないが、2017年4月の消費税引上げが決定されている現状では、先ずは歳出減を中心に議論しておくことが重要である。


(2)中長期試算における歳出は、国においては、A社会保障関係費、B地方交付税等、Cその他歳出、D国債費(償還費・利払費)に、地方においては、イ)社会保障費、ロ)人件費、ハ)投資的経費、ニ)その他の歳出、ホ)公債費(償還費・利払費)に分けて試算されている。このうち、PB対象経費となるのは、国においてはA~C、地方においてはイ)~ニ)である。
これらPB対象経費の中長期試算における2015年度から2020年度にかけての推移をみると、国においては9.7兆円、地方においては10.1兆円伸びている。
この国・地方合計19.8兆円のPB対象経費の増加については、A国・地方の歳出に重複計上されている国の地方交付税等や国庫支出金等(合計約3兆円程度)に加え、B消費税率の10%引上げに伴って支出することが決まっている社会保障の充実等の経費(約2兆円)も含まれており、これらの経費を控除すれば、5年間での純粋な増加額は国・地方合計で約15兆円程度である。
この15兆円が今後9.4兆円のPB改善を図る際の歳出改革の対象となる。


(3)その上で、国におけるPB対象経費の増加9.7兆円のうち約6割の5.7兆円は社会保障関係費の増加によるもの、地方においてもPB対象経費の増加10.1兆円のうち約5割の4.9兆円が社会保障費の増によるものである。
また、第一次安倍内閣時の2007年度から足元の2015年度の国の一般会計予算の推移を検証したところ、PB対象経費は約10.3兆円増加しているが、公共事業費、文教・科技費等が横這いであった一方で、社会保障関係費は約10.4兆円の増加となっており、一般会計PB対象経費のリーマンショック後の増加要因は、社会保障関係費の増加に求めることが出来る。
さらに、歳出規模対GDP比をOECD諸国と比較すると、社会保障支出は中位にいる一方で、社会保障以外の支出は最下位となっている。 
 以上、財政健全化目標達成のためには、社会保障の効率化は不可欠である。


(4)そこで、先ずは、社会保障支出について重点的に検証を行ったが、中長期試算においては、年金・医療・介護等の内訳、高齢化・高度化など増加要因の内訳など多くの計数が「非公表」とされている。このため、ヒアリングを重ね、これら計数について、本検討委員会において独自に試算を行った。
 税と社会保障の一体改革に伴う社会保障の充実分及び消費税引上げの影響を示す公経済負担分(以下、充実分等)については、当然ながら手を付けない前提の上で、検証を行った概要は以下のとおりである。


A年金
 既に、中長期試算においても、マクロ経済スライドなど改革効果が織り込まれており、大きなPB改善効果を見出すことは難しいが、公的年金等控除の是正などを別途検討する必要がある。


B医療
イ)中長期試算では、医療費については、1980年代以降について、A年齢階層別の一人当たり医療費の賃金・物価上昇率に応じた変化分と、B賃金・物価に依存しない上昇分を分析・算出した上で、足元の一人当たり医療費を延伸することで、当該年度の一人当たりの医療費が算出されている。


ロ)その上で、当委員会として試算したところ、医療費は、2015年度から2020年度に国・地方で3.2兆円増加し、消費税引上げに伴う充実分等(概ね0.7兆円)を除くと、その増加は、A高齢化分(高齢者増加等の人口構成の変化の効果)概ね1.2兆円、Bその他要因(物価・賃金上昇の反映・医療高度化等)概ね1.3兆円に分類される。
 上記Bを抑制することは、公的保険でカバーする世代別の一人当たり医療費を維持しつつ、歳出改革を行うことを意味する。その際、ジェネリック医薬品の普及、定額負担導入など公的保険給付範囲の抜本的見直し、薬価を含めた単価の抑制、提供体制の改革、自己負担引上げなど医療のサービス水準を維持しつつ医療費を抑制する取り組みを検討することが必要である。


(注)自己負担引上げなどの更なる取組を通じて、世代別の一人当たり医療費を引き下げていくことも検討に値する。


C介護
イ)中長期試算では、介護費についても、医療費同様、賃金・物価の上昇が介護費の上昇に与える影響(比率)を推計した上で、足元の一人当たり介護費(年齢階層別)を賃金・物価上昇率等に合わせて延伸することで、当該年度の一人当たり介護費が算出されている。


ロ)その上で、当委員会として試算したところ、介護費は、2015年度から2020年度に国・地方で1.7兆円増加し、消費税引上げに伴う充実分等(概ね0.2兆円)を除くと、その増加は、A高齢化要因概ね1.1兆円、Bその他要因(物価・賃金上昇の反映等)概ね0.4兆円に整理できる。
 医療同様、上記Bを抑制することは、公的保険でカバーする世代別の一人当たり介護費を維持しつつ歳出改革を行うことである。その際、軽度者の見直しなど公的保険給付範囲の見直し、要介護認定の精度向上や報酬単価の抑制、自己負担引上げなど介護のサービス水準を維持しつつ介護費を抑制する取り組みを検討することが必要である。


(注)自己負担引上げなどの更なる取組を通じて、世代別の一人当たり介護費を引き下げていくことも検討に値する。


D「その他社会保障」
イ)「その他社会保障」については、地方独自の社会保障施策(例:子供の医療無償化)、生活保護、少子化対策、障害者福祉、失業給付などが含まれており、中長期試算では、足元の歳出を経済成長率、消費者物価上昇率等様々な指標に基づいて延伸することで、当該年度の歳出が算出されている。


ロ)その上で、当委員会として試算したところ、「その他社会保障」の規模は、2020年度において国・地方合わせて22.7兆円(重複除き)と、A年金の13.1兆円、B医療の17.2兆円、C介護の7.0兆円を凌ぐ規模となっており、2015年度から2020年度までの増加は、消費税率引上げに伴う充実等(0.3兆円)を除くと、2.2兆円となっている。その中には、生活保護の医療費なども含まれている。
 「その他社会保障」についても、地方独自の社会保障施策を含め、個別分野ごとに効率化を進めその増分を抑制することで、今後の人口減も踏まえ、相当のPB改善効果を生み出せる余地があると考えられる。


3.歳出面の検証とそこから得られる財政健全化に向けての示唆
...社会保障支出以外の経費にも切り込みが必要。


(1)「その他歳出」については、公共事業費、防衛費、文教費などが含まれるが、いずれも、2015年度歳出を消費者物価上昇率で延伸することで算出されている。
その上で、当委員会として試算したところ、国・地方合わせて7.9兆円の増加、国庫支出金など重複を除いた純増は7.2兆円となる。
しかしながら、投資的な歳出も含むこれらの歳出については、これまでの歳出抑制の実績や今後の人口減少社会における公共サービスの見込みも踏まえれば、必ずしも純増を前提とせず、一人当たりのサービス水準なども考慮しつつ、最大限抑制する必要がある。


(2)なお、上記のようなPB改善に向けた取組として、各歳出項目の伸びを一律に抑制する必要はなく、地方公務員給与の官民較差是正や公共事業費の効率化などを重点化することで、メリハリの利いた歳出構成としていくことが可能となる。


4.歳出面の検証とそこから得られる財政健全化に向けての示唆
...特別会計・独立行政法人等の財政健全化努力も重要


(1)中長期試算では、国の一般会計及び地方の普通会計に加えて、一部の特別会計・地方公営企業・独立行政法人等が対象に含められている。改めて、2020年におけるPB▲9.4兆円の内訳を精査すると、国(一般会計)▲9.1兆円、地方(普通会計)+4.8兆円、一般会計以外の国が▲4.8兆円、普通会計以外の地方が▲0.3兆円であり、特別会計・地方公営企業・独立行政法人等における財政健全化は、重要な課題である。


(2)ただし、中長期試算では、特別会計・独立行政法人等については、名目GDPの伸びに合わせて延伸する形となっているため、試算から直接にPB改善に向けた取組を示すことは難しい。したがって、7つの特別会計、100を超える独立行政法人等について、個別に精査をしていくことが不可欠であり、行革本部としても引き続き取り組んでいきたい。


5.歳出改革について(まとめ)
 以上、各歳出分野についての検討結果を示してきたが、まとめれば、社会保障分野における世代別一人当たり医療・介護費の維持、非社会保障分野における物価上昇に伴う歳出増の抑制など聖域なく歳出改革に取り組んでいくことに加え、特別会計・独立行政法人・地方公営企業等についてきめ細かな対応を講じることで、経済再生ケースでの9.4兆円のPB赤字解消を視野に入れることは不可能ではないとの示唆を得た。ただし、そのためには、政治の相当の覚悟が不可欠である。
 上記のような試算の分析・そこから得られる示唆を基に、「財政再建に関する特命委員会」において、2020年度のPB黒字化に向けた具体的な財政健全化計画を取りまとめることを期待するとともに、行革本部においても、引き続き、2020年度以降の財政の在り方を含め、財政健全化の方策について検討を継続していきたい。


6.試算から透けて見えるその他の重要な課題
 (1)PB黒字化の着実な実現と不可欠な債務残高の引下げ
PB黒字化とは直接の関係はないが、中長期試算の経済再生ケースを前提とした場合、2020年度以降、名目長期金利が名目成長率を上回ると仮定されていることから、現在の国債残高の平均償還年限が約8年程度であることを踏まえると、中長期的に債務残高が上昇・発散することが想定される。
この点、中長期試算では2023年度までしか示されていないが、債務残高対GDP比について、一定の経済前提をおいて2030年度まで機械的に延伸すると、2014年度の195.3%をピークに2023年度時点で182.6%まで低下していたものが、2024年度から再び上昇を始め2030年度には194.1%となることが分かる。
したがって、足元の「金利<成長率」の恩恵に甘んじることなく、2020年度のPB黒字化を着実に達成し、金融緩和の出口戦略が始まったとしても金利上昇が急激におきることがないようにするなど、その後の債務残高対GDP比の着実な引き下げにもしっかりと目配りをしていく必要がある。
    なお、債務残高対GDP比は、財政収支等をコントロールした結果の数字であるが、財政再建のためには、政府が自らコントロールすることができる指標を今後検討していく必要がある。


(2)地方財政改革の必要性
 地方財政についても国の取組と歩調をあわせた歳出抑制の具体的規律が不可欠である。地方交付税については、地方財政計画上の標準的な「地方歳出」と「地方歳入」等の関係で決まるが、中長期試算上、2018年度以降は、「地方歳出」を「地方歳入」と「交付税財源の法定率分」が上回り、交付税法定率分がそのまま地方交付税額となっている。中長期試算上は、この上回る分の交付税は公債の償還に充てられる前提となっているが、当該交付税の超過分を自治体が新たな政策的経費に充てるとPB悪化要因となるため、確実に公債の償還に充てることを担保する仕組み作りが必要である。
なお、地方交付税の額を削減しても、一義的には同額の地方の歳入が減るため国・地方あわせたPBには影響がないが、地方の歳出を抑制する手法として、地方交付税の在り方(特に、自治体間の配分調整・地財計画の個別項目の積算方法等)を見直していくことは、財政健全化に向け避けて通れない課題である。

以上