前回、前々回と用いてきたiPodの例は、一企業の事例であって一般化できないという反論もあるかもしれません。しかし、グローバルなプラットフォームを設定し、世界中の企業と連携して製品やサービスを提供する流れは他でも広がっています。日本人にとって身近な例では、任天堂のWiiがグローバルなプラットフォームの設定に成功しました。任天堂が設定した枠組みに世界中の企業がハード・ソフト両面で参加することにより、任天堂は大きな利益を確保しています。その他にも、グーグルは世界中の情報の流れの「プラットフォーム」となることを目指し、検索エンジンに留まらず無料メール、世界地図、翻訳、電子図書館、さらにはブラウザや携帯電話、オフィス用ビジネスシステムへとビジネスを急拡大しています。また、フェイスブックやツイッターは世界中の友達関係の「プラットフォーム」となることを目指しており、「友達」の概念自体を変えて影響力を増しています。将来的には、マスコミやメディア、コンテンツ、ゲーム、電話、コンピュータ、家電といった情報関連ビジネスは、いくつかのグローバル・プラットフォームの下に再編され、プラットフォームを設定する企業に莫大な収益が流れ込むようになるでしょう。そして、グーグルやアップルはこうしたプラットフォームの獲得に向けて着実に布石を打ち続けているのです。


グローバルなプラットフォームがビジネスの中心となる動きは情報関連産業だけに留まりません。例えば、現在の自動車は各社ごとに異なる独自設計・仕様で生産されており、グローバルなプラットフォームは存在しません。しかし、今後、自動車内コンピュータの知能レベルが飛躍的に向上し、「スマート自動車」が登場することが予想されます。スマート自動車では、例えば、運転手の希望を聞いて自動車が自動的に最短ルートを検索し、リアルタイムの渋滞状況や気象予測を踏まえつつ、自動車が自動運転で目的地まで進むこともできるようになります。もちろん、運転中に音楽をダウンロードしたり、最新ニュースを聴いたり、最寄りのスーパーの安売り情報を知らせたり、近くの友人の車と接続して会話したりといったことも可能になるでしょう。こうしたスマート自動車の分野では、コンピュータやコミュニケーションなど基幹部分の仕様は統一され、グローバルなプラットフォームのもとに自動車産業が再編される可能性があります。電気自動車化も、燃料電池など基幹部品の統一化を通じてグローバルなプラットフォームの出現を加速します。このように、自動車産業ですら、コミュニケーションとエネルギーの両面からグローバルなプラットフォーム化が進む可能性があり、日本企業の優位が将来にわたって保証されているわけではないのです。「アイデアづくり」で負けると「ものづくり」でも負ける可能性があり、我が国としてもグローバル化・知識経済化への対応を急ぐ必要があります。


成長戦略シリーズ。次回は、「我が国の成長戦略の方向性⑤ ~諸外国の戦略~」です。