「グローバル化」と「知識経済化」のインパクトを分かりやすく示しているのが米国のアップル社です。世界中で大ヒットしたiPodは、単にクールなデザインやインターネットを通じた新しい音楽の楽しみ方を提示したことだけが革新的なのではありません。ビジネスモデルそのものが今後の産業構造のあり方を示唆しているのです。


アップルはiPodのデザインやマーケティング、iTunes Storeなどのソフトウェアの開発、アップルストアを通じた販売活動を行う一方、「ものづくり」自体は自社で行っていません。ハードドライブやディスプレイパネル、バッテリーは日本企業が、メモリーは日本企業と韓国企業が供給しています。最終製品の組み立ては台湾企業の中国工場が行い、全世界に輸出しています。このように、iPodのバリューチェーンはアメリカ、日本、韓国、中国、さらには台湾、シンガポール、タイと世界に広がり、iPodが売れることは、アメリカだけでなく東アジア全体にとって利益となっています。まさにiPodはバリューチェーンの「グローバル化」の象徴なのです。


ここで重要なのは、iPodの利益が各国にどのように配分されているかです。カリフォルニア大学の研究者の調査レポートによれば、2005年に発売されたVideo iPod 30GBの卸売価格のうち、44%が製造原価、56%が利益で、うち36%がアップル、12%が日本企業、3%が米国企業、2%が台湾企業、0.4%が韓国企業の利益となっていました。すなわち、「ものづくり」より「アイデアづくり」に多くの利益が配分されているのです。iPodという新しい「プラットフォーム」を生み出したアップルに利益の大部分が配分されるこうした構図は、「知識経済化」を分かりやすく示しています。グローバル経済では、富は「新しいアイデア」に流れます。そのアイデアを生み出すのは人です。つまり、アップルの競争優位の源泉は「人材の集積」にあるのです。自動車産業など製造業が衰退してもなおアメリカ経済が強い理由の一つは、グローバル化・知識経済化にいち早く適応し、世界中から大学や企業に優秀な人材を集め、グローバルなバリューチェーンの中で最も付加価値の高い「新しいアイデアを生み出すこと」に特化することに成功しているからなのです。


今のところ、日本の「ものづくり」は依然として高い国際競争力を維持しています。iPodの例が示すように、日本製の基幹部品は世界中で高付加価値製品の一部を担っており、以前と比べると分かりにくい形ですが、日本は依然として世界最強の「ものづくり」国であることに変わりはありません。こうした日本の強みはさらに伸ばしていく必要があります。


成長戦略シリーズ。次回は、「我が国の成長戦略の方向性③ ~『アイデアづくり』の重要性~」です。