雨の別れ


軍艦マーチ猛り出船の午後になり雨に落ち着く男の別れ

符号にて通わす安否地味なれど汝が手を振れば岸のどよめく

虹の沖くぐりて船は出港でにけり無線デッキにカフカ振る君

大西洋漁場と結ぶモールスの海の鈍色背なに重しも

☆漁業無線の歌シリーズである。
今回は雨の別れがテーマである。

  昭和四十二年に,日本郵船を辞め,地元の気仙沼で漁業無線の仕事をするようになった。それは,祖父母のことを思って,帰って来たようだ。そういえば,給料はかなり下がったといってきた記憶がある。

   でも,陸に上がって,なんとなく歌が柔らかくなったように思える。そして分かりやすくなったと思う。前回までの『航海の日々』シリーズはかなり表現を飾っていたようだ。

   これから,自然体の短歌になるのだろうか。とても楽しみである。

   とはいえ,軍艦マーチと父といえば,遊技場である。夜勤明け,『仕事が延長になる』と連絡したのに,遊技場から出てきた瞬間を見たことがある。躾に厳しい父であったが,あの時の気まずい表情は忘れられない。いい思い出である。