【後宮小説】 | 村の黒うさぎのブログ 

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大自然の中で育って、都会の結婚生活へ。日常生活の中のイベント、出来事、雑感を、エッセイにしています。脚色はせず、ありのままに書き続けて来ました。

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1000人の倍率を突破して、銀河は後宮の頂点、正妃となった。
14歳の銀河は、かつて「花嫁のあり方」を講義した師と、研究室内で向かい合ってお話していた。
「皇帝陛下との暮らしは、如何かね?」
「楽しいですよ。毎日お菓子食べて、おしゃべりして」
「それだけかい?」
「はい」
銀河は笑顔で答えた。
(やれやれ、皇子の誕生は当分望めそうにないの)
師はぼやいた。
銀河は子供だった。彼女は、まだ初潮を迎えてはいなかった。

先頃最終回を迎えたTVアニメ、「薬屋の独りごと」は大人気を博した。
その礎となるお話があるはずだ。
主人はそう考えて、この「後宮小説」を探し当てた。
「薬屋の独りごと」同様、ファンタジーの世界のお話である。時代設定としては、西暦1600年頃と推定する。
また「雲のように風のように」は、「後宮小説」をアニメ化した作品である。

皇帝が崩御して、新皇帝が即位した。それにあたって、後宮の候補者を中華全土から募集した。
「後宮では、勉強させて貰えて、"三食昼寝付き"の生活が出来る」
銀河はそう考え憧れた。
意欲満々の銀河は、後宮の宦官の目に止まった。皇妃の候補として、輿に乗せられて何週間もかけて都へと向かった。

宮殿に着くと、宿泊部屋へと案内される。
先に着いていたのが、さる貴族の娘だった。大変気位が高く、鏡に向かい髪をすいてばかりいる。生まれ育ちが良くて皇帝の正妃に相応しいのは、自分だと疑わない。
四人部屋に続いて到着した、マイペースな娘。ドアの前で待たされて、その場で居眠ってしまっていた。
四人目は、皇帝の姉で、武術の名人だった。
それぞれに個性的な相部屋の3人に、貴族の娘はペースを乱されっぱなしだ。

やがて中華全土から集められた1000人の妃候補達は、講義を受ける様になる。
体操の授業で、模範演技をしながら実技指導する宦官の先生。
体の仕組みについて講義する先生。....

半年後、試験・選考が行われた。
銀河は、後宮の頂点「正妃」に選ばれた。
「何で私が四番目の位で、あんたが正妃なのよ!?」
貴族の娘は納得がいかない。マイペースな娘は、7番目の位だった。
銀河が正妃となれた理由とは。この小説を始めから読んでゆけば、あるいはアニメ「雲のように風のように」を始めから観てゆけば、自ずと解る。


反乱軍が都に攻め込んできた。国軍の中に裏切り者が相次いで、形勢不利だった。
「城は私達、後宮の1000人で護るのよ!」
銀河の指揮のもと、旧くから武器庫に保管してあった各種兵器を持ち出して、説明書きを読みながら、1000人の妃達は立ち向かい、城を護った。
大砲を放つ。
投石機で迎え打つ。
銀河と相部屋だった皇帝の姉は、屋根で、なぎなたを振り回し、敵共を蹴落としている。
「四の五の言ってる時じゃあ無いわよ!」
貴族の娘は、大砲に弾を込めている。

-しかし、後宮の妃達の奮闘もむなしく、傾いた形勢は変わらなかった。
「私は正妃です! 私が反乱軍の大将と交渉してきます!」
銀河は決然と立ち向かった。

まず、銀河は皇帝のところへと向かった。皇帝は馬小屋の側にいた。
二人は抱擁した。
「そなたはまだ子供だ」
「私は、私は大人になりましたあ!!」
-二人は小屋の干し草の中に身を埋めた-

「鉄砲があります。これを有効にお使い下さい」
武器庫にあった一丁の鉄砲を、銀河は皇帝に差しだした。



「後宮小説」は酒見賢一の、作品としての第一作である。
アニメ「雲のように 風のように」は、続いて1990年に公開された。
酒見賢一は、1990年代前半、ビックコミック誌に「墨攻」を原作として連載している。
「墨攻」のストーリーを振り返る。舞台は古代中華。
諸子百家の一人・墨子の思想のもとに軍師が活躍する。将軍、多くの兵士、人民が、戦争に関わって、都市の城壁を護るなど奮闘する。

「後宮小説」に於いて。反乱軍の"ならず者"の大将には、本が好きな参謀がいて、大将に助言している。
しかしやがて、大将と参謀の意見は食い違ってしまう。
「皇帝になれたところで、自分の地位を守るための闘いは、次から次へと絶えない。もとは田舎の下賤な出自。
この辺で止めて、現皇帝に譲歩しないか?」
参謀は大将を諭しにかかる。
「俺は、皇帝の玉座にずっとずっと憧れてきたんだ!俺は皇帝の地位を絶対に手中にする!」
ならず者の大将は、玉座にしがみついたまま、離れたがらない。
この辺りの描写には、酒見賢一の個性が表れていると思う。

「後宮には美女が1000人いるぞ!  絶対自分のものにするぞ!!」
この勢いで兵士達が後宮に攻め込んでゆくところにも、酒見賢一らしさがある。
斯様な、本能をむき出しにする表現は、「墨攻」でもみられる。

30年前に何気無く読んでいたマンガ作品「墨攻」は、まだ新人の原作者の、実力披露の場である位置づけと分かった。
また、「墨攻」の作画を担当した森秀樹も、当時新人だった。
そして「墨攻」は、その年の「小学館漫画賞成年部門」に選ばれた。

それから-
作画の森秀樹は、ビックコミック誌上その他で実績を築き上げて、現在ひとかどのマンガ家として、地位を確立している。

酒見賢一は、
1989年「後宮小説」で日本ファンタジーノベル大賞
1992年「墨攻」で中島敦記念賞
2000年、新田次郎文学賞を受賞している。
2023年、59歳で没した。



「後宮小説」
酒見賢一著作
新潮社出版
Kindle版 (電子書籍)

アニメ「雲のように風のように」
酒見賢一原作
VAPにてDVD・BDを販売

「墨攻」(全10巻)
酒見賢一 原作
森秀樹 作画
小学館 ビックコミックス