ある高3カップルのお話

 糸くんと私は幼馴染 保育園から小・中・高校とずっと一緒。 私は「糸くん」と「運命の糸」でつながっていると思うからそう呼んでいる。糸くんは私のこと「よっちゃん」と呼んでくれる。あたしの名前は良子だから。

 

 糸くんはお母さんと妹の3人暮らし。私たちは高3だけど糸くんは進学しない、というか出来ない。私より成績はずっといいけれど。中学の頃から親戚の叔父さんの工場でお掃除したり、いまでも休みはアルバイトさせてもらっている。家計を助けるために。ずっと前、アルバイト代の入った封筒を落としたことがあった。二人で携帯灯して銭ぶち公園中探してポケっトも何回も調べたけれど出てこなかった。その時は私が泣いた。糸君は足を揃えて少しだけ私を見て「泣いてくれてありがとうね。」といった。私、それを聞いて大泣きした。

 

 日曜日に糸君に会うのが好き 糸君のアルバイトが終わるまで私は図書館で勉強をして待っている。試験が迫ると糸くんのためにまとめを作ってあげる。糸くんの方が勉強時間が少ないのに点数がいいのはちょっとかんがえてしまうけれど、それは糸くんの頭がいいからかもしれないし、きっといろいろな制約のなかで真剣に生きているからかな。一度「糸くん、大学に行かないならあまり成績関係ないね。赤点さえ取らなきゃその程度でもいいかもよ」って言ったことがある。糸くんが「うん。でも高校生のうちしかもう勉強できないからそれなりにするよ!」って遠くを見つめるように言った。はっと気づいて私、自分が恥ずかしくなって下を向いてしまった。

 

 糸くんはいつも同じ服ばかり着ているし、派手なことは何もできないけれどひとつだけ素敵だなあと思うことがある。いつも洗濯したての服をきて、洗い立てのいいにおいがする。「お母さんが洗ってくれるの?」と聞くと「ああ」といったけれど私はわかってるよ! 糸君は清潔好きだし、それに中学生の妹の体操服も洗ってやってるのだものね。自分で洗濯しているんだ。乗ってる原付バイクも通学の自転車も全部親戚のお下がりでおんぼろだけど、シンプルでクリーンな糸くんが好き。

 

 来年の今頃、私たちは離れ離れになるだろうな。私は心理学を学びに東京の大学に行くつもり。糸くんは「少しでもいいとこに就職したい。」と言っているから新潟か長岡あたりの会社の寮に入るのかな。糸くんはお母さんと妹の三人家族になってからずっといくつもの「制約」を背負って生きてきている。私は色んなことを糸くんから教えてもらったような気がするけれど、それが「諦めや制約なんかじゃなくて、糸くんの「覚悟」のようなものかなあと思うようになった。だから私は高校卒業の時絶対泣かない。「4年後新潟に戻ってくる。ここで仕事を見つける。糸くんさえ良かったらずっとずっとそばにいたいから!」

そう私なりの覚悟を伝えて東京に出ようと思う。

空よりも高く海よりも深く・・二人の糸を信じて

 

監督