ここは新潟 雪降る里 大学進学率40%の環境下、有名大学を目指す高3男子がいた。その名は魚沼瓦 六國(うおぬまがわら むつくに)18歳 立派な名前だ。親が「借金をしてでもお前を大学に行かせてやる。」と言ってくれていたにもかかわらず、部活のせいか 地頭のせいか、それとも教師が居眠りをして寝過ごすような学校が悪いのか、いや、そもそもしっかりお勉強を積みあげずに今日まで来てしまった本人の意識の低さが悲しいほど愚かだ。それでも有名大学名を模試で書き続け、ついにE判定が50個を超えた夜、六國(むつくに)恐ろしい夢を見た。
そこは真っ暗な闇、どろどろの沼に体が沈み周りでうめき声が聞こえる。
「愚か 愚か 愚か・・・」 耳がつぶれそうな大音響。
見ると、自分と同じように半身はだけたボロボロの制服姿の隣町の迷門進学校の高3生たちがふらふらで叫んでいる。それでも、趣味の悪い紺のブレザーやチェックのスカートの制服組は日ごろから地上で「頑張るぞー」型シュプレキコールをさせられ続けているので声が地獄でも揃っている。洗脳効果であろうがおぞましい。しかしながら、ここE判定地獄では通用しない。
突然真っ黒な闇の中、六國(むつくに)の頭上に何かがスルスル落ちてきた。見ると糸だ。自分にだけ垂れたきたその糸は天空へとのびている。 手に取ってみると思ったよりしっかりしている。六国(むつくに)は両手でしっかり手繰り寄せた。すると不思議、その瞬間、体が宙に浮きはじめたのだ。
「しめた。助かるかもしれない!」
六國は心の中で微かな希望を感じた。極限状態で必死の力を振りしぼり糸をどんどん引っ張る。体が宙に浮く。ますます力を込めて手繰る・・・・天空にむかって体が持ち上がっていく。しばらくして六國は自分を持ち上げている糸の下に、何人もの受験生が、特に紺色のブレザーの生徒たちが延々とぶら下がり、我さきに引っ張っていることに気がついた。
六國は焦った。
「いくら0.5未満の競争率で定員割れと言っても数十名はいる。あいつらにぶら下がれられたらこの糸が切れてしまう。」 そう思った瞬間、浦佐小学校で紙芝居おじさん(監督は15年間のべ4万5千人に紙芝居を読んであげたんだよー)の紙芝居で見た「蜘蛛の糸」のおはなしを思い出した。主人公の犍陀多(かんだた)は自分だけが助かりたい(A判定をとりたい)がために蜘蛛の糸を切って下にぶら下がっている何人もの人を地獄へ落としてしまった。そしてその瞬間,仏陀の怒りにふれ自分も再び地獄(E判定)におちたのだった。地力も学力もないが人柄だけはいい自分の高校の典型である六國は「ここでぶら下がってきている連中をおとしてしまったら、自分も落ちるに違いない。」と考え、大人数で糸が揺れて怖いくらい不安になっていたが、そのまま何もせず(お勉強もせず)ぶら下がりつづけたのだった。さらに中学時代から事あるごとに学校で「受験は団体戦だ。みんなでがんばりましょうね。」と言われ続けてきたことも極限での判断に迷いを生じさせた。
しかし、それは完全な判断ミスとなった。
プツン 数秒後、絹の糸は六國の上で切れた。
あーあーあーあーあーあーあ・・・・・
全員が落ちたところはE判定地獄ではなかった。今度はもっと深い闇の中、
そうBF(ボーダーフリー)地獄だった。シーン しばらく沈黙・・・(おしまい!)
あとがき
とにかく甘いんだ。受験は人に勝ってなんぼの世界 何が団体戦だ。受験に学校もクラスメートも幼馴染もあるわけないだろ!無責任なことを子供に言うものじゃない。「絆」教育を「受験」競争と混同するんじゃないよーだ。確固たる自分・自主・自信がなくて勝負に勝てるか? 大学受験をなめんなよ! 監督
掲載の絵はすべて鈴木出版紙芝居「くものいと」より



