これはドライブスルー型塾に大胆にもママチャリで挑んだ母と息子の物語である。

 

道路沿いに派手な電飾看板が点滅している。TVでおなじみのマーク。
ファースフードと同じノリでこのところ17号線上に急速にドライブスルー型塾の出店が増えている。手続きが早くて便利そうだ。
駐車場をおおきく回るようにしてドライブスルーのラインに車をつける。車が並んでいても中には親と生徒一人だから、待たなくても済みそう・・

このドライブスルー型塾に大胆にも一組の母と子がチャリで挑んだ。

慌てた受け付けが非常ドアから飛び出してきた。

「お客様、このレーンは自動車専用です。危ないですからすぐ自転車をのけてください・」

母は強かった。

「あーた。なに言ってんのよ! 私たちも自転車2台で4輪でしょ。ごじゃごじゃ言ってないで受付しなさい!。」

女性職員はしぶしぶ引き下がった。流石に母ちゃんはちがう。東京教育大(現筑波大学)出身だ。

スピーカー「いっらしゃいませ 大学受験生ですか?」
お客   「はい」
スピーカー「ありがとうございます!」
スピーカー「どちらの高校ですか?」
お客   「△高です」
スピーカー「名門のほうですか 迷門のほうですか?」
お客   「名門のほうです!」
スピーカー「確認のため学生証を下の方にあるトレーに入れてください。」
  ガチャン・・ピーピー…シュ・ーガチャン
スピーカー 「ありがとうございます。確認中です。あなたは名門ではなく迷門のほうですね」 
お客「・・・・・・いや・・進学校の名門の△高です!」
スピーカー「お客様、質問には正確に答えてください!」
お客   「は・・はい。普通高の△高です。」
 スピーカー「確認できました。それでは次の質問にすすめます。」
     「希望大学と学部を登録します。」
お客   「△○大學○△学部です。」
スピーカー「お客様。すみません。よく聞き取れませんでした。恐れ入ります。もう1度大きな声で言ってください。」
お客   「△○大學○△学部です!」
スピーカー「お客様、質問には見栄をはらずに正直にお答えください。」
お客   「?????」
スピーカー「お客様、こちらにお越しになる前に熱を測られましたか?
お客   「いいえ」
スピーカー「体温計をトレイにいまいれましたので今すぐ測って下さい。」
お客   「は・・・・・はい。」
      ピーピーピー
お客   「36.4度です」
スーカー 「平熱ですねえ・・・それではもう1度確認しますが志望校は国立✕○大学で間違いございませんね。」
お客   「はい!何回も言わせないでくださよ。」
スピーカー「失礼いたしました。あなたの高校の平均学力は全教科で今現在全国平均以下ですので、それにもかかわらず平然と難関大学を希望されているのでお熱でもあるのかと思いまして・・・」
     「それでは直近の模試結果をお見せください。」
     トレイの開く音
お客   「入れました。」
スピーカー「今確認しております。」
     「恐れ入りますが他の模試結果をおもちではないですか」
お客   「え? 2月のベトベト模試ではだめですか?」
スピーカー「だめです!」
お客   「なぜだめなのですか?」
スピーカー「多くの下位高校も受けているので当社では参考にしておりません。特に数学は問題が簡単な傾向にあり国立大学希望者には参考になりません。3月実施の東大記述模試や四谷や仙台模試のデータをお見せください。」

親子の会話

母     「もってきてないの? その仙台のデータ?」
子供    「代々木じゃないよ。四谷!駿台じゃくて仙台だよ。そもそも△高の2年はベロベロ以外学校で受けてねーもん」
スピーカー 「ございませんか?」
お客    「ありません。3年になれば受けると思います。たぶん・・」
スピーカー 「わかりました。それでは次の質問にすすめます。私立を併願 しますか?」

突然母親が答える「うちはお金に余裕がないので私立は受けません。」
スピーカー「恐れ入ります。オタクがお金もちか貧乏かを聞いているのではありません。受験の併願の可否をきいているのです。」
お客   「併願しません」
スピーカー「わかりました。国立単願コース内容の全リストのはいった登録フォームをお渡しします。そこにあるあなたのIDをWEB画面でインプットされ24時間以内に申込手続きを済ませてください。折り返しコースとそのスケジュール並びに料金をメールでおしらせします。模試データが出ていないためコースは錬成コースではなく基礎メイビーコースから選んでください。」

ドライブスルーを出た後の親子の会話
母親   「なんか後味悪いわね。顔を見ないでやるからあんなこと平気で

いううのよ。体温までは測らされて信じられないわ??」
息子   「別にいいじゃん。」
母親   「あの国立単願の基礎メイビーコースってなに?変な名前ね。」
息子   「メイビーって英語かなあ??」

注釈 「国立単願 基礎メイビーコース」とは maybe「ひょっとして」受かるかもという意味である。

                        

maybeすら知らない息子の愚かさ加減を目の当たりにして定期預金を解約するのを止めた。

母は決意を抱いた。

abusolutely

「私が教える!」