仕事の帰りだろうなあ、毎日遅いんだなあ、お母さんが挨拶に来てくださったから同じ事を言っておいたよ。あの人は教育のプロだから釈迦に説法かもしれなかったが世界で1番心配し続けたお母さんに何よりお前の強さと努力を監督の口から伝えておきたかった。
忘れもしない。明日学校では進路を告げなくてはならなかったという前の晩、個人授業の終わるちょうど10分前だった。
「監督、私は本当に受けても大丈夫でしようか?」
「そら届くやろ(関西弁)。明日受けるなら危ないかもしれないけれどまだ時間がある。」
「毎晩のように滑る夢を見るんです。それも具体的て夢でないみたいな本当のようなはっきりした夢。監督、私一体どうすればいいですか?」
その時、監督も自分の夢の話をしたよな。
「監督が大学院で修士論文の期限が迫っていた頃、毎晩のように陸上競技場のトラックを際限なく何周もたった一人で走っている夢をみたよ。」
そしてこう続けた。
「滑る夢を見るのは当たり前で、現実認識が出来ている証しだから心配しなくていい。ああ私バカじゃなかったと思えばいいんだよ。」
お前は安らかな表情で聞いていた。割に素直というか単純に考えられたんだろうか・・
数分後こう言った。
「私、受けます!受ける事になると思います。」
監督はこう言った。
「えらい!中々そうは決められないんだよ。いくら大丈夫と監督が言っても下げてしまうものが多い。お前はいい子だ。」
ここなんだよ。まだ倍率がでていない。今年はきっとオーバーすると巷では言われていた。倍率も出ず、依然点数も足りなく、内申もよくない。残りの時間で作戦どおりもう一段積み上げることしか道はない。そこに自分を、そう未来を託したんだ。
幸い倍率が想定以下でさぞかし安堵したに違いない。ただあれから1か月表情はますます厳しくなってそして自分のお勉強にも厳しくなっていった。点数にこだわる勉強をつづけた。一度社会の授業の時、「何回繰り返してるんだ!弱点の箇所を覚えないから点数が伸びないんだ!」と怒鳴り散らしたことがあったよな。丁度休憩に入って友達はヒーターの周りに集まって配ったアイスクリームをほおばってきゃあきゃあ抱き合っている。お前はそのまま机に座って答案から間違いをノートに移し替え語集を引こうとした。監督はね、そばに置いてやったアイスが融けないかずーっと心配で見ていたんだよ。同時に「ああこれで決まる。これなら間に合う」と思ったな。
滑る夢を見ていたころ、気持ちが負けて、もし志望校を変えていたら今日のこの喜びは違ったものとなっていた。難しい方を選び、自分の力で合格をつかんだのだよ。おめでとう!
学校も休みがちで中学3年生の後半は自信ももてなかっただろう。しかし最後にはこうして高校受験という最大の目標を自分の強い意思と判断でやりきったよ。
だから!
「自分に自信を持ちなさい。」
それを言いたかったのだよ。
おめでとう! いい子だ。とてもいい子だ。よくやった。
敢えて言っておくが大学受験はこうはいかないから。付け焼刃では絶対通用しないから。
心してお勉強を続けなさい。すぐ大学受験はやってくるから。
お前がしっかり3年間積み上げれば3年後は、お空全体をUFOがおおって緑の強い閃光がまぶしくて、思わず目を覆う「夢」をみるんだ。その夢は大学合格を意味しているんだよ。
監督


