レインボーに中1の男子がいる。今監督は数学の個人指導を続けている。別の講師と2人がかりで親まで巻き込んで徹底的に補強をしないといけないということになっている。

 

この男の子はしゃべらない。「こんにちは」も「さよなら」も「ありがとうございます」もいわない。声もだせるし話もできるのだがニタッと下を向いたまま座っているだけなのだ。

別の講師からも「まったく話さない。困る」と聞いてはいた。夏に特別講習をした時、この生徒は監督の余談を聞いてニタニタ嬉しそうにしているのを見て「あ、こいつ聞いてるんだ。話は分かってるんだ」との印象を持った。

 

秋になって個人指導を始めた。小学校の分数からはじまって方程式まで抑えていく。

毎週の如く「声を出せ」

「監督の冗談を笑う時は声を出して笑え!それがレインボーのルールだ」

「挨拶は!」「返事は!」「さっさとやれ」「さっさと言え」「さっさと出せ」等々口うるさく言い続けた。しかしあまり効果がなかったな・・・。

 

4回目のレッスンが過ぎたころから変化が出始めた。

教室に入ってきてニタッとしながらゆっくりお辞儀をするから

「黙ってないでこ・ん・に・ち・わ・だろう!」とお辞儀のペースに合わせてどなると

また笑いながら

「こ・・ん・・に・・ち・・わ・・」といった。

入会時から数えると苦節5か月めについに声に出してご挨拶ができた!幼稚園みたい?

その日から結構しゃべるようになった。

「おい○○△、今日はレインボーの後どうするの?」

「おじいちゃんのところにい・・き・・ま・・す。」

「どこ?」

「堀之内・・で・・す・・」

「何するの?」

「バーベキュー!」声が弾んだ。

「そうか‥いいなあ 土曜日だしいい季節だものなあ」

「おじいちゃん稲刈り忙しくないのか!仕事はもう引退しているのか」

「今・・仕事はしていないです。」

「昔は何をおじいちゃん していたの」

「タクシーの運転手」

「そうか運転手さんか・・」

「おじいちゃんもおばあちゃんもよくお小遣いをくれるか」

「普段はあまりくれないけれどお正月はびっくりするくらいくれる・・」

「そうか それはいいなあ・・5000円くらいくれるんだ。きっと」

目を見開いて

「5000円もらってびっくりした・・」

ピンポンだったわけだな, 金額がね。

 

これはさあ みんなわかっている? 監督の自慢話をしているんだよ。

伊達にこの辺の子供相手に15年間のべで45000人を相手に「紙芝居おじさん」をやってきたわけじゃないよ。どういう子供かよくわかるから普通の大人より距離感がずっとずっと近いんだ。

 

この間の土曜日、ヘルメットをつけた中1の男女がレインボーの玄関のところで自転車を止めて話している。よく見たらその無口のうちの生徒と知らない女の子だ。

翌週聞いた。

「あれは誰だ。妹か」

「いえ 友だちの女の子で・・す・・」

「そうか友だちと2人でサイクリングか」

「・・・・」

「レインボ―のまえでわざわざ自転車をおりて友達にここにきていると話していたのか?」

「・・・・」

「同じ中1か」

うなずく

「そうか。それならあいつをレインボーに入れろ!いいな」

恥ずかしそうに笑った。

                                              監督