監督の妻はアメリカ人。彼女と結婚したとき彼女はテキサス大学で教鞭をとっていた。そして監督は東京で毎晩2時ころ帰宅するようなジャパニーズビジネスマンだったよ。妻はビジネスマンが大嫌いでお金や利益を行動の中心におくシステムをこころの底から軽蔑しているふしがあった。今もそうだ。
 
 出産を機に東京からここ浦佐に引っ越した。生まれて13年間、ここ南魚沼は浦佐ネイティヴ の息子が新潟の深雪の地からホノルルの中学校に進んだとき州でNO1の進学校だから6年後はハーバードとかスタンフォードとかの経済や法律の分野に進むものと漠然と思っていた。

アメリカのおじいちゃんは今年83歳だけれどMBAを持っている。

ところが、中学校の音楽の授業でたまたま選んだチェロが息子の進学先を決めた。今ジェイコブス音楽院にいる。

 息子が高3のはじめの頃ホノルルに会いに行って

「アイビーリーグとかで経済か法律の分野に進むと思っていた。」

と監督がそういった時、妻は猛烈な勢いで

「高収入をもとめてそういう誰にでもできる分野で進学していくものと、うちの子供のように芸術をきわめようとするものとどっちが尊いとあなたおもっているの?どっちが難しいとおもっているの?勉強さえさせれば合格するようなゴールと才能がないと実現できない音楽という芸術にかかわる進路・・・あたしははっきり言ってこっちの方が価値が全然高いと思うけど」

と言い返えされた。
「おっしゃる通りです。はい。」

監督は下を向いて同意した。英語だから3697%反論しないほうがいいし・・・

確かにお金や業績で人は感動させられない。音楽で人は感動し癒される。そう言葉さえ要らない。そういう確信をついている。だから息子も自分の進路に「そういう確信」をもって進んだ。

世界から集まった、そしてそのほとんどが3歳からレッスンを始めてきた学生たちに交じって、毎日が母親のいう「芸術を究める」日々を送っているようだ。

母親の深淵なる子供の将来への確信、それは母の人生観そのものでもあり、そして息子への愛情そのものであるのかもしれない。

今後も黙ってその母親(妻)の意見を聞いていくことにしよう。        

                                                      監督