エオルゼアは、春祭りの最中だった。
プリンセスデー。
街には花飾りが並び、甘い香りが漂い、ナマズオたちも賑やかに踊り、太鼓の音が響いていた。
そんな賑わいの中で、ギョリイは思う。

∈(👁️___👁️)∋そろそろ帰るっぺかな

薩摩の本丸へ。
転移の光が消えた時、見慣れた門がそこにあった。
静かな空気、いつもの庭、いつもの砂利道。

「ただいまっぺ〜」

そう言って歩き出した時だった。
廊下の向こうから行光がやって来た。
だが、いつもと少し様子が違う。

「あー……その、なんだ」

言葉を探すように視線を泳がせ、いつになく真剣な顔で言った。



「ちょっとな……」

ギョリイはすぐに分かった。
刀剣男士がその顔をするときは決まっている。

「修行っぺか?」

行光は一瞬だけ目を見開き、小さく笑う。

「……さすがだな。まあ、そういうことだ」

沈黙が落ちる。
庭の風が松の葉を揺らした。
ギョリイはゆっくり頷く。

「行ってくるといいっぺ」

迷いはなかった。
審神者として止める理由はない。

「許可するっぺ」

行光は少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。

「ありがとな」

そう言って門へ向かって歩いていく。
背中はまっすぐだった。



ギョリイは垂幕の陰に隠れた。
行光に見えない場所から、そっと見送る。

砂利を踏む音、門が開く音、足音が遠ざかる。
胸の奥が少しだけきゅっとなる。

∈(👁️___👁️)∋……うぺ

寂しい。
けれど、それは言わない。
そのまましゃがみ込んだ。
そこへ、ひょい、と影が落ちる。

「どうした」

鶴丸だった。

「泣いてるのか?」
「泣いてないっぺ」



だが次の瞬間、ギョリイはそのまま鶴丸のぽんぽんに顔を埋めた。

「うぺぇぇ……」

ぽんぽんに涙。
鶴丸は一瞬驚いたが、すぐに笑った。

「やれやれ」

そしてそっと撫でる。
ギョリイがいつも言う背びれを(実際には無い)
だが鶴丸は気にしない。

「なに、あいつのことだ」

遠くの門を見ながら言う。

「すぐに戻ってきて」

そして少し笑う。



「俺たちをあっと驚かせてくれるさ」

ギョリイはぽんぽんのまま小さく頷いた。

「……うぺ」

春の風が本丸を通り抜けていく。

修行に出た刀、見送る主、そしてその帰りを静かに待つ本丸。
薩摩の春は、少しだけ寂しくて、それでもどこか温かかった。