3月28日。
それは、廃刀令が公布された1976年から数えて、実に229年目となる日。
そして今は2205年。刀剣男士が時の流れに抗い、審神者とともに歴史を守る世の中。
かつて「刀」が姿を消したあの日が、今では――「審神者の日」として、多くの人に感謝される日に変わっていた。
しかし。
本丸の一室にいるその存在だけは――
年がら年中ナマズオの日だった。
「ギョチンちゃんのSS、最高っぺぇぇぇ!!ギョミヤちゃんのハゲしいナマズオ吸い返信も面白くてたまらんぺぇぇぇ!!」
ポーキースーツのむちむちボディをバウンドさせながら、ナマズオマスクをかぶった“審神者”は、NINEの画面に夢中だった。
ナマズオテンパード専用の無料コミュニケーションアプリ“NINE”。
彼女は今、その中で“チーム・ナマズハトモダチ”と、世界で最も愛おしい会話を繰り広げていた。
その部屋の前には――
山のように積まれた感謝の手紙と贈り物。
「……今年も、すごい数だな」
山姥切国広が、そっと手紙を積み上げながら呟いた。
「主、もう少し外を見てくれてもいいんじゃないか?」と、長義が呆れたように笑う。
「まぁ、楽しそうだし、いいんじゃない?」と、清光が肩をすくめ、
「この本丸だけだよね、エオルゼアのナマズオ文化が浸透してるのって」と、安定が続ける。
本丸中の刀剣男士たちは、知っていた。
この奇妙で、騒がしくて、底抜けに明るい“ナマズオ族の審神者”が、どれほど彼らを救ってきたかを。
歴史が壊れそうなとき、心が折れそうなとき――
「ギョギョギョ!!!ギョギョギョ!!!」と叫んで笑わせ(本人はめちゃくちゃ必死に逃げ回っていただけ)、「必殺!ヨルダンスっぺぇぇ!!」と踊って勇気をくれた(本人はジャンプしたら攻撃をかわせると信じ必死なだけ)。
だからこそ、この“審神者の日”に、言葉を届けたかった。
「いつも、ありがとう」
「君がいたから、俺たちはここにいる」
「主、これからも……」
ギョリイはそれらの手紙をまだ見ていない。
今はまだ、NINEの画面に夢中で――
『ギョミヤちゃんったらギョチンちゃんのスクショ見て、ま〜たそんし特急エデン逝きに乗車したっぺぇぇぇ!!』
それでも。
刀剣男士たちは、彼女の背中に思いを重ねる。
彼女が自分たちの主で、心から大切な存在であることを、改めて胸に刻みながら。
それは、静かで、温かい、薩摩の本丸の春の一日。
ナマズオ族の審神者が、世界で一番幸せそうに笑っていた――