六月の中旬――
微かに夏の匂いが混じり始めた頃。
 
審神者の部屋に、山姥切国広がやってきた。
その顔はいつもよりずっと真剣で、まっすぐだった。
 
「ぬふふっ、まんばっぺ!?おやつタイムっぺか!?今日のおやつはなんだっぺかなぁ〜?」
 
いつものようにおちゃらけて見せるギョリイに、まんばっぺは珍しく、応じなかった。
 
「……聞いてくれ。頼みがある」
 
その言葉の重さに、ギョリイの背筋がピンと伸びる。
 
「……修行に、出たい」
 
その一言に、ナマズオマスクの奥でギョリイの心が揺れた。
 
夜――
ギョリイは眠れなかった。
 
何度も寝返りを打って、何度もまんばっぺの顔を思い出して――
こっそり泣いた。
 
(……行ってほしくないっぺ)
 
(でも、オラに言ってくれたっぺ…修行に出たいって頼んでくれたっぺ…)
 
(だから……笑って、見送ってあげなきゃダメだっぺ…!!)
 
次の日、残酷にも出立の朝が来た。
まんばっぺの希望で他の刀剣男士たちが寝ている時間、朝早くの出立。
空は悲しいくらいの快晴だった。
見送りは、代わりに近侍を任された山姥切長義と審神者ギョリイのふたりきり。
 
「……それじゃあ、行ってくる」
 
そう言って装束を正す山姥切国広に、長義がいつもの調子で口を開く。
 
「弱い刀には修行が必要。そういうことかな」
 
どこか挑発するようなその声に――
 
まんばっぺは、何も言わなかった。
ただ、ギョリイにだけ一度振り返り、ほんの一瞬、笑った。
 
ギョリイはナマズオマスクの奥で、ぎゅっと歯を食いしばって――
 
「……行ってらっしゃいっぺ!オラ、待ってるっぺから!!」
 
そう、声を張った。
まんばっぺは一言も返さず、そのまま背を向けて、静かに歩き出す。
 
ギョリイと長義の前を通り過ぎる山姥切国広
 
(……オラ、ぜったい……)
 
(帰ってきたら、ぜったい、笑顔で「おかえり」って言うっぺからな)
 
心の中で強く叫んで、ギョリイはその場に立ち尽くした。
 
隣の長義が、ふと
「……さて、偽物くんは本当に強くなって帰ってくるのか見ものだよ、主」
そう呟く。