源清麿と語らった後、ギョリイはそっと立ち上がった。
ナマズオマスクの奥に映るのは、穏やかな決意。
「……源清麿は、オラの本丸に来たいって言ったっぺ」
その言葉を聞いて、案内役の男士が少し目を見開いた。
「本当に……?」
「うぺ。だから……もう一回、話させてほしいっぺ。君のとこの審神者さんに」
「……わかった。案内する」
屋敷の奥。
源清麿の主――あの、冷静な青年審神者が待っていた。
ギョリイが現れると、彼は視線だけを向けて言った。
「……今度は、どんな言葉を並べる?」
ギョリイは、畳に手をついた。
まっすぐに、頭を下げる。
「言葉じゃないっぺ。源清麿の、気持ちっぺ」
「…………」
「清麿は、帰りたいって言ったっぺ。先生がいる本丸に帰りたいって……」
「……清麿が、そう言ったのか」
「うぺ。自分の意思で。誰に強いられたわけでもなく、誰かを裏切りたいわけでもなく……ただ、大切な人の隣にいたい、それだけだったっぺ」
「…………」
ギョリイは、ゆっくりと顔を上げた。
ナマズオマスクの奥、その瞳は迷いなく澄んでいた。
「君の本丸が悪いとは思ってないっぺ。でも、選ぶのは刀剣男士っぺ。彼らにとっての“居場所”は、命令じゃなくて、気持ちで決めるものだって、オラは思ってるっぺ」
しばらくの静寂。
やがて、男は目を伏せ、そしてぽつりと呟いた。
「……俺は源清麿を“戦える刀”として見ていた。彼自身の願いや過去より、力を求めていた。……でも、それじゃ彼の刃は、折れるばかりだな」
「……」
「水心子正秀。彼の隣でなら、清麿は、きっと……今よりも強くなれる。そう思うなら、俺が口出しする権利なんてない」
「…………!」
「……連れて行け。清麿の願いの続きを、君の本丸で叶えてやってくれ」
ギョリイは、じわりと涙ぐみながら――それでも笑って深く、深く、頭を下げた。
「……ありがとっぺぇぇぇ……!オラ、一生、君のことナマズオ大名って呼ぶっぺ!!」
「いや、それは断る」
「うぺぇぇぇぇ……っ!?」
そのやりとりすら、どこか温かかった。
廊下に戻ると、そこには、源清麿が静かに立っていた。
すべてを悟ったように、優しく微笑んでいた。
「……ありがとう…その…新しい、主」
「……うぺ……っ、清麿ぉぉぉぉ……っぺぇぇぇぇぇ!!」
ギョリイは、渾身のあゆみよりステップで駆け寄り、源清麿にしがみついた。
泣いて、笑って、清麿のぽんぽんをぽふぽふ叩いて。
「……行こっぺ。あったかいところ、待ってる人がいるっぺよ!」
源清麿は、そっとギョリイの頭を撫でた。
「うん。先生のもとへ――帰ろう」