ギョリイが、日々本丸を離れることが増えた。
最初は、誰も何も言わなかった。
夕方になれば必ず帰ってくるからだ。
 
近侍・山姥切国広も同行しているようだった。
 
だから、信じて待っていたのだ。
 
しかし…
 
日々が重なれば、不安もまた積もっていく。
最初に爆発したのは、やはりこの男だった。
 
「主、今度は何してんの!?俺たち、また置いてけぼりなの!?ほんとそういうとこ、主ってばさ!!」
清光の怒号が本丸に響いた。
 
「主……何をしてるんですか。教えてください」
長谷部も厳しい声音で問いかける。
 
「僕たち、主がどこに行ってるのか知りたいだけなんだ。心配なんだよ」
安定の声は静かだったが、真剣そのものだった。
 
ギョリイは、ナマズオマスクを押さえたまま、笑ってごまかす。
 
「うぺ……ちょっと、ナマズオの会合が立て込んでるっぺ……モロコシ様の件で……」
 
「またそれ!?本気で隠す気!?」
 
「うぺぇぇぇぇ……」
 
結局、その日もギョリイははぐらかし、何も語らなかった。
 
納得のいかない刀剣男士たちは、ついに動いた。
向かった先は――
 
「山姥切、知ってるんだろ」
「主がどこで、何をしてるのか」
 
山姥切はしばし無言だった。
しかし、根負けしたのかおもむろに口を開いた。
 
「主は……源清麿を探している。水心子正秀とは別の本丸に振り分けられたあの男を、だ」
 
空気が凍る。
 
「……でも、あの振り分けは、政府の極秘案件だろ?」
薬研が眉をひそめた。
 
「ああ。だから主は、なんの手がかりもない中で……一日中、あちこちの記録や噂を追って動いてた。……ずっと、源清麿を想ってる水心子を見てたから、何かしたかったんだろう」
 
「…………主が……私のために……?」
 
声が震えていたのは、水心子正秀だった。
 
「でもまだ終わっちゃいない。源清麿の振り分け先を突き止めたまではよかったが、それからは――毎日のように、その本丸へ頭を下げに行ってる」
 
「え……」
 
「……その本丸の審神者に、譲ってくれって、な。……何度断られても、頭を下げ続けてる。ナマズオマスクのまま、正座して、土下座して……」
 
「……そんな……なんで、そこまで……」
水心子は、その場に立ち尽くした。
まさか、そこまで深く、想ってくれていたとは思わなかった。
審神者が、自分のために動いていた。
何も告げずに。
 
水心子の目に、ひとしずくの光が揺れた。
 
刀の涙は、静かに、薩摩の本丸に染みた。