また、風の気持ちよい昼下がりだった。
縁側にはいつものように、ナマズオマスクの審神者と、端正な姿の打刀・水心子正秀。
「今日は、みっちゃんにおにぎり握ってもらったっぺ!高菜チーズとさつまおいもとモロコシ様混ぜっぺよ!」
「……モロコシ様混ぜとは、もはや何なのか……いや、もう聞くまい」
ふっ、と水心子の口元がわずかに緩んだ。
彼の頑なだった表情が、少しずつやわらいでいることに、ギョリイは内心小躍りしていた。
だがその時――庭の茂みから、“ごそっ”と不自然な音。
「…………っ」
水心子が即座に警戒の色を見せるも、ギョリイは「うぺ?」と首をかしげるだけ。
そして案の定、次の瞬間――
「おい山姥切、どうなっている!主は本丸を出て一体 何をしているんだ!?」
「そうだよ!主がいない本丸なんて、本丸じゃないんだけど!?」
「僕たちもう限界なんだけど……っ!」
「声が、デカい……っ!!」
山姥切国広が、小声で三人を制したが、時すでに遅し。
縁側に座るギョリイと水心子、二人の視線が、同時に庭先へ向いた。
そして、茂みからひょこっと顔を出したのは――
へし切長谷部、加州清光、大和守安定。
「………………」
「………………」
「………………」
「……………うぺ?」
妙な間が生まれる。
「……ちょ、ちょっとだけ様子を見に来ただけだから!」
清光が慌てて言う。
「いや、ちょっとどころじゃないよ……まるで尾行だった」
安定も顔をひきつらせている。
長谷部は顔を真っ赤にして、山姥切に詰め寄った。
「山姥切ッ!お前、主をあの打刀と二人きりにしておいて、何とも思わないのか!?」
「……別に、俺は主を信じている」
「はああああああ!?」
三人が一斉にのけぞった。
「主を信じるのは当然としてもっ……!それとこれとは別だろ!?なんで毎日ここに通ってんの!?なに!?水心子正秀ってそんなに手がかかるの!?」
清光が叫び倒す。
「う、うぺぇぇ……ば、ばれたっぺな……?」
ギョリイがオロオロとナマズオマスクを押さえる。
その横で、水心子は困ったような顔をしていた。
「……随分と、にぎやかな本丸なのだな」
「……うぺ…オラのところ、にぎやかだっぺ……」
「………ふ」
小さな笑い声が漏れた。
水心子正秀が、ほんの少しだけ、肩を震わせて笑っていたのだ。
「な、なに笑ってんの!!」
清光が叫んだ。
「……少し、可笑しくてな。こんなにも騒がしい本丸が……私には、ちょっと想像もつかなくて」
その笑みは、かつての彼からは考えられないほど柔らかかった。
「……君の本丸、少しだけ、気になってきた」
ギョリイはその言葉に、ナマズオマスク越しでも分かるほどぱあぁっと顔を輝かせた。
「……う、うぺぇぇぇぇっ!? そ、それってオラと一緒に帰るってことっぺぇぇ!?!?」
「……そう焦るな。“少しだけ”だからな」
賑やかな庭先で、過保護な刀剣男士たちは口々に文句を言っていたが、水心子正秀の心には、静かに、小さな春風が吹いていた。
そして彼はまだ気づいていない。
この本丸では、“少しだけ”なんて言葉は、まったく通用しないということに――